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時計じかけのアンブレラ

第8章 and more

何でもない風に言ったのに、途端に松潤は吹き出した。

「何なの?ケンカした?」

不思議に思って肩越しに顔を覗き込むと、可笑しくて仕方ないみたいに目が笑ってる。

「それ、この間大野さんにも言われたよ
オオエさんって知ってる?って(笑)
寝言で名前呼んだらしいじゃん
翔君が変なこと言ってる、って
あの人心配してたよ
本人は全く身に覚えがないみたいだったけど
翔さんがそこまで気にするってことは何か心当たりがあるわけ?
やべーな、浮気だな」

「ばっ!ちげーよっ!!」

嬉しそうに俺を見て言うから、慌てて逃げようとしたら手を握られた。

「俺が持ってる情報、内緒で教えてあげようか?」

なぬ?

「…耳貸して」

囁くように言うのにつられて松潤に顔を寄せた時。

「あー、なんかイチャイチャしてるぅ~」

相葉君の声がした。

見ると、智君をエスコートしながら二人が戻って来たところで。

「おかえり」

絶句してる俺の手を握ったままの松潤が、いつも通りの落ち着いた声音で返事をする。

あの人は眠そうにぽよんとした顔でこっちを見てた。
二人が近づいて来る。

「翔さんが耳のマッサージしてくれるって
相葉さんもやってもらったら?」

「え、そうなの?気持ち良い?
翔ちゃん、俺にもやって~」

松潤はようやく俺の手を離すと、立ち上がって席を空けた。

「キミは誕生日じゃないでしょ」

「なんでよ、いいじゃんっ」

ニコニコ笑ってる相葉君と話しながら、皆、優しいな、と思った。

あれから相葉君と智君のことを色々言ってる人がいるけど、俺達は何も変わってない。

智君も、相葉君も。
松潤も、今は席を外してるニノも。
いつだって自分よりも相手の気持ちを尊重して来た。

俺達がこれまでの長い付き合いの中で決定的に揉めることがなかったのは、皆が皆、自分の気持ちを二の次にしてきたからだ。

時にイラッとすることがあっても、まずは一旦飲み込んで表に出さない人達。

俺達のパブリックなイメージから言ったら余所余所しくて水臭いと思われるくらいに、実際の俺達は相手の心に踏み込み過ぎないよう、物凄く気を遣って相手を思い遣って来た。

傷つけたくない。
嫌な思いをさせたくない。
上手くやって行きたい。

元々は、仕事仲間だから揉めたくない、だったのが。
やがて、大切だから壊したくない、へ。






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