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時計じかけのアンブレラ

第9章 サナギが見る夢

その時もオイラは眠ってて、人の気配で目が覚めた。

「しょおくん…来てたの…?
おかえり…」

パイプ椅子に座ってる翔君に笑いかけると、薄っすらと微笑んでた笑みが深くなって。
細められた両目から涙が零れたから、オイラは驚いた。

「しょお、どうしたの…?」

点滴を刺していない方の右手を持ち上げると、翔君が握ってくれて。
そのまま腰を上げて覆いかぶさってくる。

「しょお?」

耳元で聞こえる息遣いがやっぱり泣いてて。
オイラは指を解いて、翔君の背中をそっと擦った。
スーツから微かにお香の匂いがしてる。

しばらくすると翔君は体を起こして、涙を零しながらにっこりと笑った。
しっかり抱きしめてやりたくて、起き上がろうとするオイラを翔君が支えてくれる。

「大丈夫だよ、ごめんね、智君…」

言いながら布団を整えてくれた時に、何かが滑って落ちたような音がした。
翔君が床から持ち上げたのは青い傘だった。

「青江さんだったんだ
久しぶりだねぇ、元気だった?」

青江さんは優しい顔のまま、でも、何か不思議そうに小首をかしげた。

「そう言えば翔君は今海外だった(笑)
青江さん、今の翔君と見分けがつかないね…
どうしてそんなに泣いてるの?」

青江さんは静かに首を振って、鼻をすすった。

「また貴方に会えるなんて、思ってなかったから…
嬉しいんだよ…
こんな、こんな奇跡があるなんて…」

話しながらも青江さんの目からはポロポロと雫が落ちてくる。
翔君と同じ顔で泣かれると、可愛くて、愛おしくて仕方ない。
手をのばして涙を拭った。

「前に会ったのは2015年だったねぇ
ふふっ、オイラ老けたでしょ?
青江さんは全然変わらないね?」

青江さんはベッドサイドのキャビネットに置いてあった卓上カレンダーに目をやる。

「今は2021年なの?」

「そうだよ?」

「俺は2015年の貴方にも会えるの?」

「…忘れちゃったの?
青江さん、オイラが子供の頃から何回も会いに来てくれたじゃん
いつも今と同じ40歳ぐらいの翔君の姿でね(笑)
オイラ、チビの頃は青江さんが翔君だってわからないからさ
オジサンって呼んでたんだよね?
ふふっ、今思うと失礼だったなぁ…
ふふふっ」

思い出したら可笑しくて笑ってしまった。
青江さんはそんなオイラを、ビックリした時の翔君と同じ顔で見ていた。






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