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時計じかけのアンブレラ

第9章 サナギが見る夢

「そうか…夢だと思ってた…
でも、やっぱり、夢じゃなかったんだね…」

青江さんは我慢できないみたいに一瞬顔をゆがめて。
それから隠すように手で覆う。

「青江さん…翔君…?
翔君の隣には、
多分オイラは、もう居ないんだよね…?」

青江さんの翔君は、顔を両手で覆ったままウンウンと頷いた。
ポケットからハンカチを取り出して、自分の顔を拭いて。
静かに話し出した。

「この間、子供の頃の貴方に会ったんだ…
夢だと思った…幸せな夢だ、って…
貴方はまだ小さくて…
ランドセルをしょってて…
割り算が出来ない、って泣いてた(笑)
ふふっ、ほんとに可愛くて…

俺があまりにもボロボロだから
てっきり、誰かが…
俺を憐れんで見せてくれた夢なのかと…

それか、いよいよ酒でおかしくなって
現実と妄想の区別がつかなくなった、って…」

言いながら自嘲するように笑って見せる。

そうか…未来の翔君の隣には、やっぱりオイラ…。

何となく予想はしてたけど結構ショックで。
涙が出そうになったのをグッとこらえた。

尻をずらして翔君の近くまで寄って。
そっと頭を撫でる。

「夢じゃないよ…ほら、触れるでしょ…?」

翔君はまたウンウン、って頷くと、オイラを抱き寄せて。
ぎゅうぎゅうに力を込めながら、絞り出すように言った。

「智君っ、守ってやれなくて、ごめんっ」

続く嗚咽は、慟哭って感じで。
合わさった胸から翔君の辛さがダイレクトに伝わるようで、とうとうオイラまで泣いてしまう。
オイラ、翔君を一人遺して先に逝ってしまったんだ…。

「ごめんねっ、ごめんね、しょおっ…」

オイラを抱き込んだ翔君の頭が、否定するように揺れる。

違う、違う、と言いながら、翔君はひとしきり泣いて。
やがて嗚咽が収まってオイラを離すと、また自分のハンカチで顔を拭いた。

泣いてしまったオイラの頭を撫でながら、濡れたまつげのまま笑いかけてくるその笑顔が、ほんとに何て言ったらいいのか…愛おしくて…。

「智君、具合はどう…?」

無理矢理気持ちを断ち切るように、翔君が静かにオイラを見て訊いた。
オイラも枕元に置いてあったタオルで顔を拭いてから、なるべく心配させないように答える。

「大丈夫だよ…
ただ眠くて…
休止に入ってから毎日寝てばっかりだよ」

「え?休止って?」

青江さんの翔君が固まった。




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