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Melting Sweet

第1章 Act.1

 私も決して異性に縁がなかったわけじゃない。

 二十代の頃は女友達に誘われて合コンにせっせと参加し、そういった場で出逢った男と身体の関係を持ち、その流れで付き合ったことが何度もある。

 ただ、長続きした例(ためし)がない。

 私は料理が大の苦手だ。
 だから、そんな女子力の低い私に幻滅し、ある者は黙って連絡を絶ち、ある者には二股をかけられ、その現場に遭遇した私は逆ギレされてしまった。


『みんな外見に騙されるんだよ』


 口さがない女友達に何度言われてきたことか。
 初めて言われた時はカチンときたけど、今では腹立たしさは全く感じなくなった。
 そもそも、指摘は正しいのだから反論のしようがない。

 そして、気付くと私も三十半ばを超えてしまった。
 四捨五入すると四十、って、あまりトシのことは考えたくもないけど。

 結局、私は結婚することもなく、大卒と同時に入った大手企業に今も居座り続けている。
 同期どころか、後輩達もどんどんと寿退社をしてしまい、女の同世代はほとんど残っていない。
 若い子達からは、『お局さま』とベタな陰口を叩かれているのも知っている。
 けれども、あえて気付かないふりをして、嫌味で口煩い〈お局さま〉を演じ続ける。
 損な役回りだ。

 ただ、唯一ひとりだけ、私の調子を狂わせる存在がいる。

 みんな、私を腫れ物でも扱うように敬遠しているのに、彼だけは何故か、やたらと人懐っこい笑顔を振りまきながら私に接近してくる。
 こっちがどんなに睨みを利かせても、相手は全く動じる様子もない。

 正直、あまり関わりたくない。
 けれども皮肉なことに、彼は私と同じ部署の部下ときた。
 あからさまに避けたら、かえって周りに変に思われそうな気がして、突っぱねたくても突っぱねられない。
 本当に厄介な存在だ。

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