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若葉

第2章 嫉妬

痕を搔き消すように、強く擦る。
洗っても洗っても流れ落ちてはくれない。
痕も傷も痛みも何もかも流れてしまえ…

落ちる涙はシャワーで流した。

赤く腫れた目と、こすり過ぎた肌がヒリヒリ痛む。

疲れた体をベッドに倒して、そのまま眠りについた。
明日なんか、来なければいいのに…



『眩しい…』
カーテンの隙間から、朝日が差し込む。
重い体を起こし、身支度を整える。
制服に袖を通し、いつも通りの時間に家を出る。
通いなれた道を歩く。
電車に揺られながら、窓の外をただ眺めていた。
考えたくもないのに、昨日の事が頭をチラつく。

昨日、枯れ果てたと思っていた涙がまた出そうになり、鼻をすする。
泣いてもしょうがない…
泣いても何も変わらない…
泣くのは昨日で終わりだ…
自分に言い聞かせる。


『おはよう』
いつも通り、何もなかった日常に戻る。
教室に入り、クラスメイトに軽く挨拶をした。

『おはよう。智、昨日のテレビ見た?』
『昨日?疲れて寝ちゃったからなぁ…何か面白いのがやってた?』
『それがさぁ…』
談話に花が咲く。

『席つけー、ホームルーム始めるぞ』
担任の松岡が教室に入ってきた。


静かな空間が広がる。
ペンと教科書の音が眠気を誘う。
優しく暖かい日差しが、さらに瞼を重くさせた。



『寝てただろ?さっき』
1限目が終わって、松岡先生に用事を頼まれて向かった職員室。

『…隠してたつもりだけど…?』
『あれでか?てか、否定しろよ』
松岡先生は、兄貴みたいな親しみやすさから生徒に人気があった。
『用事は何ですか?』
『あぁ、これを櫻井に渡してほしいんだ。同じ生徒会だろ?』
渡された用紙の束を受け取る。
『…』
『…櫻井と何かあったか?』
覗き込むように見られる。
我にかえり、作り笑顔を浮かべる。
『…何も。…渡しておきます』
足早に立ち去る。
松岡先生が人気の理由の一つは、これだ。

観察眼が鋭い。
困ってたり悩みを抱える事が多い年代。
さりげなく話しやすい環境を作ってくれるが…今の俺にはそれが辛い。

絶対知られたくない。






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