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若葉

第2章 嫉妬

『…はぁ…』
生徒会室前まで来て、なかなか一歩が踏み出せない。
ため息にも似た深呼吸をして、意を決して扉を開けた。

室内に入ってすぐ、櫻井の背中が目に入った。
その背中を見た途端、体が強張る。

『入ったら?』
『あっ…あぁ、そうだよね…』
入口に立ち尽くしていた俺に、櫻井は振り向いて、声をかけた。
いつも通りの声。
いつも通りの視線。
昨日の櫻井はどこに…

『これ…松岡先生から。渡しといてって…』
プリントをさし出す。

バサっ…

『!!』

手が伸びてきたのを見て、とっさにプリントを離してしまった。
櫻井がゆっくり椅子から立ち上がり、プリントを拾う。

『ありがとう』
笑顔を向けられた。
いつも通りの友人の姿だった。

怖い…
友人だと思ってた櫻井の、別の顔が忘れられない。
『じゃあ…教室戻るよ』
早々と立ち去ろうと、入ってきた扉にまた手をかける。

『智君』
櫻井に呼び止められる。
『なに?』
振り向かず、そのまま返事をする。

気配を感じた。

!!

背中から抱きしめられる。
『っ⁈しょっ…くん⁈』
体が固まる。

『昨日の事…俺、後悔とかしないから』
『えっ⁈』
『酷い事したとは思ってる。ごめん…。でも、また同じ事すると思う。』

嫌な汗が出る。

『なんで⁈俺は嫌だって言った‼︎』
『嫌でも、またすると思う』
『何でだよ⁈』

抱きしめられている腕に、さらに強く力が入った。

『好きだからだよ。他に理由なんかない。この先、松本にあなたを抱かせない』
『…』
自分勝手な話に、返す言葉が見つからない。

キーンコーン

鐘の音が鳴る

『…行くよ…離して』
『また、放課後に待ってるね』
『…』

解放され、無言で部屋を出た。

友達には戻れない…
戻る気もないのだろう…


教室への帰り道、自分でも気づかないうちに、下を向いて歩いていたのだろう。
『智?』

前から人が来た事に気づかなかった。

声の主を見た途端、いつもの日常を繰り返すはずだった俺を、嫌な現実がばかりで引き離されていく音がした…

『…潤君…』
『…生徒会室に行ってたのか…?』
松本は、俺が歩いてきた先を見ながら言った。
『そぅだよ…。先生から預かったプリントを渡しに』
『櫻井にか…?』
疑うように鋭い視線。
後ろめたい気持ちが気づかれないか、ドキドキが止まらない。




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