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君の光になる。

第10章 ラブホテル

「僕に背中を向けてください……」
 
 安倍が夕子の背に手を当てた。
 
「あ、ハイ……」
 
 言われた通りに、夕子は安倍に身体を向ける。背中にトニックシャンプーの匂いが近づく。自分の心臓の鼓動が聞こえるようだ。
 
 ブラウスの上に羽織ったカーディガンがふっと浮き上がる。
 
 ――えっ……?
 
 カーディガンはスッと夕子の腕から抜けた。エアコンの空気が近くなったようで肌寒い。夕子は次に起こることを予感した。
 
「シャワーにしましょうか。立花さん……?」
 
「……ハイ」
 
 夕子の背後でカチャカチャと小さな鉄が当たる音がしたあと、チイっというジッパーを下ろすような音が聞こえる。スッという布が擦れる音だ。
 
 夕子も自分のブラウスのボタンを外し始める。胸の辺りが開《はだ》け始めるのが分かる。まだ、シャツとブラジャーが夕子の身体を隠しているはずだが、安倍の視線が気になった。
 
「あの……安倍さん?」
 
「……ハイ……」
 
「今、私、見ていますか?」
 
「ええ、立花さんの後ろで……」
 
 夕子の背中に安倍の手のひらを感じた。身体の力がスッと抜けた。
 
「……恥ずかしい。安倍さん、目を閉じていてくださいね」
 
 ふっと、吹き出すような安倍の息づかいが聞こえた。夕子はスカートのホックを外した。
 
「ハイ……分かりました」
 
「安倍さん、笑いましたね。今、ふっと……」
 
「……いえ……可愛らしい、と思いまして……」
 
「恥ずかしいです。そんなこと言われると……」
 
 カサカサという安倍の衣が擦れる音が止んだ。
 
 ちゅっ……。
 
「……あっ、きゃっ……」

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