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君の光になる。

第10章 ラブホテル

 ――えっ……。
 
「きゃっ……」
 
 固い。肉の塊に指先が触れた。夕子は慌ててその手を引いた。それは固いが白杖のような冷たく無機質なものではなく。その瞬間、生き物のようにピクリと跳ねた。
 
 ――安倍さんの……。
 
「ああ、ゴメンなさい。ゴメンなさい。僕……」
 
 ベッドのバネがグラリと揺れた。
 
「……いえ、私もすみませんでした。私、初めてだったので……。男の人の……その……」と夕子が言ったあと、安倍のそこに手を伸ばした。夕子は、フウと、大きく息を吐いた。
 
「あ……」
 
 安倍の小さな呼吸のような声が聞こえた。
 
 重みのあるそれを手のひらで包む。柔らかさの中に芯が入ったようなそれは生き物のように息づいており、時折夕子の手の中でピクリと跳ねる。
 
「ふふっ……」
 
「えっ……?」
 
「だって、カワイイんですもの。安倍さんの……。小さな生き物みたいで……」
 
「えっ、カワイイですか……?」
 
 安倍が吹き出すように言った。
 
「はい、とても……」
 
 ――それは、たぶん安倍さんのだから……。

 

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