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第3章 小麦の滴

「なんとか言えよ!黙ってたらわからないだろ!」
ばんっ!と机をたたく警察官。
「…」
僕は黙ったままだった。
黙って過ごすことに決めていた。
はあーっ、と警察官はため息をついた。

柳田の家を出て、駐在所についてから、小さな部屋で事情をきかれた。
でも、僕は何も話さなかった。
本当のことは言えないし、他のことを話せば嘘になるからだ。

「なあ、君の顔には殴られたあとがある。俺だって、君が全部悪いなんて思ってないさ。あの酔っぱらいの柳田さんと何かあったんだろう?」

警察官は小野といった。
小柄だが真面目だった。
僕のことも気遣ってくれていた。
でも、真琴さんのためには、説明したくてもできなかった。

「困ったなあ。説明してくれないと帰ってもらえんし…せめて柳田の奥さんが説明してくれたらなぁ」
「…」
「あの奥さんとは知り合いなのかい?」
「…」
「んー、もう。頼むよーなんとか言ってくれよ」
「…すいません」
小野には申し訳なかった。
困らすつもりはないのだ。
「えー俺にあやまられてもなぁ…」
小野は頭をぽりぽりと掻いた。

小さな窓にはすりガラスがはまっていて、外の様子は見えないが、激しい雨音が聞こえていた。

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