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*。・。*1ページだけのストーリー集*。・。*

第9章 これなら堂々としてても大丈夫?(※)



「わぁー広ーい!」
「眺めも最高! 早く入ろう!」

 来た来た。呑気な女どもが。湯気でまだよくは見えないが、こっちに近づいてくればハッキリと見れる。

 俺は、間近で裸体を盗み見るために女の露天風呂に堂々と侵入。湯にヒタヒタと浸かりながら、ニタニタと悪い笑みを浮かべていた。

 え? 『男が堂々と入ってたらバレるぞバカ』だって? そんなことはわかってる。

 だから俺は〝ここにいても大丈夫な姿〟になってるんだ。

「見てー! あそこで〝お猿さん〟が浸かってるー!」
「ホントだ! かわいいー!」

 完璧だ。女どもは、俺を猿だと信じて疑ってない。

 さすが、10人中9人が本物だと騙される〝リアル・モンキースーツ〟だ。100万円貯まっちゃう貯金箱でコツコツと貯めて、アラゾンで大奮発した甲斐があった。

 しかもコレ、ただのリアルな着ぐるみではない。防水加工もしてあり耐熱性にも優れているから、こうして湯に浸かっててもへっちゃらピーなのだ。

 さぁ、女どもよ! 猿(俺)の可愛さに酔いしれ篤と戯れるがよい! 茂みに隠したカメラにもバッチリ収めてやる! スーツに100万円かけた分、ガッツリ元を取らせてもらうぞ!

 女どもはキャッキャとハシャギながら風呂に入り、ザブザブと波を立てて近づいてくる。

 もうすぐだ。もうすぐ生裸体がやって来――

「今だっ!」

「っ!?」

 なっ……誰かに両腕を掴まれた!

 突然のことに対応出来ないまま両側を交互に見ると――ゴツい男二人が猿(俺)にしがみついていた。それと近くに来た女どもは、風呂では禁止されているハズの水着を着ていた。

 なんだコイツら!? ハンターか!?

「のわっ!」

 後ろのジッパーを下ろされ、猿の首の部分だけを剥がされると、俺のお粗末な素顔が露に。

「犯人確保! 隠しカメラも発見!」
「確保って、あんたら一体っ……?」

 あがくように訊いた俺に、全員が一斉に見せつけてきたのは――立派な警察手帳だった。

 どうやら俺には『観念する』という選択肢しかなさそうだ。

「人間並にデカい猿が女風呂に入っていったとの通報があったんだ。猿になるなら、もっと小さくならないとダメだろ」

「あ……」


 俺は愕然し、こう悔やんだ。

『それなら〝リアル・ベアースーツ〟の方を購入すれば良かった……』と。


〈完〉

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