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*。・。*1ページだけのストーリー集*。・。*

第1章 恨み辛みを活かす時



 練習後。部のマネージャーである私は、先輩でもある部長と、カーテンで夕日を遮られた真っ暗な部室で二人きり。お互い向かい合って、膝が重なりそうな距離でパイプ椅子に座っている。

 頼もしくて男らしい部長。密かに想いを寄せる私。

 その中で部長は、自分の膝に乗せたラジカセの再生ボタンを押す。と、

 ♪ヒュ~ドロドロドロ……

 密かに期待していたラブロマとは無縁な、幽霊定番のBGMが流れだす。

 今度の文化祭、部の出し物はオバケ屋敷に決定し、私はメインの幽霊役。で、部長が演技指導をしてくれることに。

 私はロングヘアーを前に垂らし片目だけを覗かせ、懐中電灯でアゴの下辺りから顔を照らし、一言。

「うぅーらぁーめぇーしぃーやぁー……」

 こんな顔、部長に見せたくない。それでも羞恥に耐え、おどろおどろしく演じた。なのに、

「ダメダメ。まだ人間を捨てきれてない」

「えー……」

 部長が幽霊BGMを止めて無情のダメ出し。あんまりだ。

「あのさ。オバケ屋敷のメインなんだよ?
 本気で人を『ギャー!』と叫ばせてくんないと困るよ」

 好きな人の前でそこまで怖く出来ません。ていうか、部長何気に演技に厳しくない? ここ運動部だよね? いつから演劇部に?

「なら、どうすれば?」

「うーん……あ、そうだ。日頃の恨み辛みを思い出してやってみたら?」

「うらみつらみ……ですか」

 しかたなく頭の中を探ってみる。

 恨み辛み恨み辛み……

 私を押し退けて、部長にベタベタする女子達。

 部長と話してるだけで、私を睨み付けてくる女子達。

 私の靴の中に、画ビョウ・砂・ゴミを日替りで入れてくる女子達。

 私が部長に(以下、エトセトラ)

 出るわ出るわ。日頃の恨み辛みが、走馬灯のように。

 あぁ恨めしい、恨めしいぃ……

「お。いい感じだ」

 部長が狙ったように、再びラジカセをカチッ。

 ♪ヒュ~ドロドロドロ……

「うぅ~らぁ~めぇ~しぃ~……がぁーーーーっ‼」

 溜まりに溜まった怨念を全て解き放った。

「ギャー怖っ! スゴい、やれば出来るじゃん!」

「ギャー! 部長、近いっ!」

 喜んでる笑顔がステキだし、大きな手で私の顔を包み込んでるしで……幽霊役なのに、キュン死にしちゃう。

 今だけ、私に恨み辛みを与え続けた女子達に感謝しよ。

〈完〉

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