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*。・。*1ページだけのストーリー集*。・。*

第12章 おなじきもち



「……結構なモテっぷりですこと」

 友達の美世(みよ)が、俺の机の上に積まれたバレンタインチョコを見て呟いた。

「俺もビックリなんだけど。教室に戻ってきたらコレだし」

「あっそ」

 なんか美世が恐い……何でだ?

「……そうだっ。一緒に食うか? 俺一人で全部食べたら胃を壊しそうだしさ」

 甘い物を食べさせれば、機嫌も良くなるだろ――

「っ! 食べるわけないでしょっ! あんたなんか胃を壊して入院しちゃえ! バーカッ!」

「いてっ!」

 良くなるどころか更に悪くなって、あげくに何かを投げつけて逃げやがった。

「あ……」

 投げつけられたのは、ハート型の赤い箱。

 ――俺が密かに欲しいと思っていた、美世からのバレンタインチョコだった。

 そして、箱に付いていたメッセージカードには

『好き』の一言が。

 たった二文字なのに、何万文字分に匹敵するぐらい、大きな気持ちが熱く伝わってくる。

 美世……。

「何だよ。素直に渡してくれれば俺だって……
 好きなのに」


 俺は、美世のチョコだけを持って急いで追いかけた。





「――美世っ!」

「っ、航平っ……」


 友達の航平が、教室から逃げた私を追いかけてきた。玄関で靴を履き替えようとしたところで、腕を掴まれてしまった。

「はぁっはぁっ……お前、いきなり逃げるなよ」

「だって、ムカついたんだもんっ。あんなにチョコ貰ってるし、『一緒に食うか?』つって私に食べさせようとするしっ」

 と文句を言いながら、涙で視界が歪む。

「ごめんな。俺、無神経だった」

「別に、謝ってほしくないっ」

 うぅ……気恥ずかしくて、なかなか素直になれない。

「その……俺も同じ気持ちだから」

「……同じ、気持ち?」

「コレのことだよ」

「あたっ」

 航平がさっきのお返しとばかりに、頭に軽く叩くように乗せたのは、

 私がヤキモチして投げつけたハート型の箱。

『好き』の一言だけ書いたメッセージカード付きの、バレンタインチョコ。

 同じ気持ち……てことは、

「んっ……」


 ウソ。

 航平の顔が、唇が、私と重なってる……。


「……じゃ、帰るぞ」

「わっ、ちょっと待ってっ……」


 いきなりのキスと、カップル繋ぎで伝い合った――

 私と航平の、同じ気持ち……。


〈完〉

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