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*。・。*1ページだけのストーリー集*。・。*

第15章 気になる君に……



 毎朝、通勤電車で見かける彼女。いつも本に目を向けている。

 凛とした横顔は……時折、ふわっと蕾が開きかけたような笑みを浮かべたりする。

 ありきたりな表現だけど……くすんだ心に癒しを与える一輪の花のよう。

 俺は、降りる駅に着いたことにも気づかないほど、いつも彼女に見入ってしまうんだ。

 気になる……。

 けど、ヘタに声をかけてナンパだと思われたら……以降俺を嫌煙して、車両や乗る時間を変えてしまうかもしれない。

 それでも俺は勇気を出して、彼女に一歩踏み出した。

「あっ……あのー……」

 隣に立ち、鼓動を一回一回強く打たせながら声をかけると、

「っ、あっ……はい?」

 彼女の表情が、ハッと驚いたように変わった。

 怖がらせたんじゃないかと思わせる反応に怖じ気づき、たまらず身を引いてしまいそうになった。けど、めげずに耐え、そのまま続けようとした。

「あの……俺、山本と言います。
 いつも君のことを電車で見かけてて、そのっ……
 あっ、大丈夫ですっ。決して怪しい者じゃないので、安心して下さいっ」

 って、何言ってんだ、俺。余計に怪しいっつーの!

 ダメだ、失敗した……と、落胆しかかったら、

 彼女は――ふわりと表情を和らげて、ふふっと小さく笑った。

「……えぇ、わかってます」

「え……?」

「私も……いつも見かけてましたから。あなたのことを……」

「…………っ」


 吸い込まれそうなぐらい澄んだ瞳で、真っ直ぐに見つめてくる彼女。


 俺は、顔に熱が帯びてくのを感じながら……

 また君に見入ってしまっていたんだ。


〈完〉

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