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*。・。*1ページだけのストーリー集*。・。*

第18章 僕だけの素顔



 俺の彼女は、幼稚園からメガネと共に過ごしてきたと言う、メガネ歴11年の大ベテラン。その分厚いレンズをみれば、一目瞭然で視力の悪さがわかる。

 そんな彼女が、

「私がコンタクトにするのって……どう思う?」と、おずおずとして訊いてきた。

「何で?」「何でって……やっぱり変かな?」

 首を傾げる彼女に、俺は内心穏やかじゃなかった。

「……あ、汚れてる」

 彼女がメガネをスッと外してレンズを拭きだすと、

「……っ」

 その素顔に、度々心を奪われてしまう。

 そう。彼女はメガネ女子にありがちな――

『メガネを外すと、実は美少女』

 もしコンタクトにしたら……余計な野郎が殺到してしまい、俺は袋叩きだ。

 なので、

「俺はお前のメガネ、好きだけど?」

 さりげなく阻止。

 けど、阻止のためにウソを言ったんじゃない。これも紛れもない俺の本心。メガネも引っくるめて彼女が可愛い。

 彼女は俺のセリフに照れながら、拭き終わったメガネを再びかけた。

「で、何でコンタクトにしようと思ったの?」

 改めて真意を訊くと、

「えっと……イメチェンをしたくて」と彼女は答え、更に

「オシャレしたら、喜ぶかなぁ……て」と続けたあとに、

 俺の方をチラリ。

「え、てことは……俺の、ため?」

「…………うん」

 反則だ。不意にドキリとさせられた。

 罰として――イジワル決定。

 俺は彼女の顔からメガネを取り上げた。

「何すんの、メガネ返してよっ!」

「い、や、だ」

 取られまいとメガネを高々と掲げる。

「もうっ、何も見えないのにっ」

 見えないながらも、俺にしがみついて必死に取り返そうとする姿も萌える。俺って、何気にSか?

「こんなイジワルされるんだったら、やっぱり私コンタクトにする」

 ふくれる彼女にイジワル心が加速した俺は、

「ダメ。可愛すぎる素顔は、俺だけの特権だから」

 見えないことをいいことに――不意打ちで唇を重ねた。

 一瞬でも感触がよく伝わったのか、彼女は真っ赤に。

「っ、自分だけズルい。私だって、ちゃんと顔見てからキスしたかったのに」

「……悪いけど、イジワル延長」

 今ので俺まで顔色がヤバくなった。

 顔色が戻ったらちゃんとメガネを返すから、

 したら今度は――顔が見える状態でキスしような。

〈完〉

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