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*。・。*1ページだけのストーリー集*。・。*

第3章 短冊に託したプロポーズ



「ねぇ。裕一の病気、本当に治るの?」

 理沙は今日も俺を疑ってくる。

「治るに決まってんだろ。髪を犠牲にしてまで治療受けてんだぜ。な?」

 だから、俺は今日も『嘘』でかわす。

 被っているニット帽を取り、スキンヘッドを見せつけて、あっけらかんと振る舞う。

 理沙を安心させるため、嘘をついて胸を痛めても、平気な顔をする。

『本当は治らない』上に、『持ってあと一年』という最悪な期限もあるなんて知られたら、酷く悲しませるから。

 だけど、俺が急にいなくなっても同じか。

 くそっ、一体どうすればっ……。

「……ほら、面会時間終わるぞ」

「うん。また来るからね」

 理沙が名残惜しく病室を後にした直後、

「っ、ぐっ――」

 耐えていた副作用の吐き気に強く襲われた。

「はぁっ、はぁっ……理沙っ……」

 本当だったら今頃は――プロポーズをしていたのに。

 理沙が泣いて喜ぶような言葉を伝えて、抱きしめて、一緒の名字にするはずだった。

 けど……先のない俺は、未来を誓い合うことがもう出来ない。

 それなら一層のこと、別れて……

「ん?」

 病気よりも辛い決断の手前で目についたのは、理沙が座っていた丸イスの上にある、細長い紙。

 手に取ってみると、

「……短冊?」

 そうか。明日は七夕だ。病院にも笹が飾ってあるよな。

 何か書いたのか? と裏返したら――


〈裕一がどこに行っても、
 私のことを好きでいてくれますように〉


 切実な願いに、涙が落ちていく。

「理沙っ……」

 本当のこと知っていたのか。

「バカ。当たり前なことを願うなよ」

 どこに行っても好きに決まってる。どこに行っても……

「やっぱり嫌だ。どこにも行きたくねぇ、別れたくねぇっ。理沙と一緒にいたいんだよっ」

『バカ』は俺の方だ。

 死ぬことばかりで、大切なことを見失ってた。



 七夕当日。

「理沙。俺どこにも行かないから、コレ書き直したぞ」

「あ、この短冊…………、っ!」

 理沙に渡した短冊に、改めて託した願いは――


〈二人で幸せになりたい〉


 ずっと伝えたかったプロポーズでもあった。

「その願い、一緒に叶えよ?」

「裕一っ……」

 泣いて喜ぶ理沙を引き寄せた。

 願いが本当に叶うように、強く……強く抱きしめた。


〈完〉

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