
乃愛
第1章 想い
乃愛は俺を見つめている。
何か呟いているのか、唇が微かに動く。
「乃愛、言いたい事があるなら言ってみな」
彼女の頬が僅かに赤みを帯びた。
「……しい」
消え入りそうな声が耳の奥に頼りなく届く。
言いたい事は解っている。
それでも俺は聞き返す。
「聞こえないよ?大きな声で!」
彼女の頬が益々赤くなるのが解る。
「して欲しい!」
「ちゃんと言えたじゃないか」
ねだる彼女に嬉しさを感じながらも、その喜びを静かに奥へと隠し、平静を装いながら俺は彼女を抱き抱えた。
ベッドの上に優しく彼女を下ろし、そっと顔を覗き込む。
潤んだ瞳で見つめ返してくる乃愛。
込み上げてくる愛しさが、俺を少しだけ熱くさせた。
