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キャンディータフト(短編)

第1章 キャンディータフト



心地よい風が頬を撫で、私はゆっくりと閉じていた瞼を開いた。
机に伏せていた顔を上げると辺りを見渡す。風に揺れるカーテンの音が僅《わず》かに響くだけで、人の気配のない教室。
それを確認した私は、視線をすぐ横の窓へ移すと外を眺めた。
決して広いとは言えない校庭に、一際目立つ大きな木が目に入る。
桜だろうか。小さなピンク色の花が咲いている。

「ひよ……?」

懐かしいその声に、私は眺めていた外の景色から視線を外すと振り返った。
開けられたままの教室の入り口を見ると、その声の主であろう男の子が私を見ている。
少し色素の薄いサラサラの髪に、垂れ目がちの大きな瞳に通った鼻筋。幼かったその顔は、顔立ちは変わってはいないもののすっかりと大人びている。
私とさほど変わらなかった背丈は、教室の扉と比べてみればとても高いのがわかる。
見覚えある姿とはだいぶ変わってはいても、見間違えるはずはない。

絡まる視線。
戸惑いに僅《わず》かに揺れる瞳。

「……大ちゃん」

私がポツリと小さく呟くと、大ちゃんは優しく微笑んでから口を開いた。

「……やっと見つけた。ここにいたんだね」

とても嬉しそうに微笑む大ちゃんの姿に、私は思わず泣き出しそうになる。
どうしたというのかーーとにかく、私は大ちゃんに会えたのがとても嬉しかった。

ゆっくりと私へ近付いてくる大ちゃん。
どんなに会いたいと願った事か。今、目の前にいる大ちゃんの姿にその想いがやっと叶ったのだと心が震える。

「ひよ、久しぶりだね。ずっと会いたかったよ」

そんな事を言われてしまえば、私はついに我慢ができなくなってしまう。

「私も……ずっと大ちゃんに会いたかったよ」
「ひよは相変わらず泣き虫だね」

困った様に笑う大ちゃんの言葉に、私は自分の頬に流れる涙に気付きそれを拭った。
そんな私の仕草を黙って見守る大ちゃんに、なんだか少し照れ臭くなる。


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