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数珠つなぎ

第1章 あなたを救いたい

「はい、どーぞ」

腰の激痛で動けない俺に、智は綺麗に身体を拭いて後処理をしてくれた。

手慣れている感じにさっきまでの幸せだった気持ちが沈みそうになる。

「これ、飲みな?」

「……ありがとう」

ソファーの背もたれに身体を預けたまま、手を伸ばしてミネラルウオーターを受け取る。

「ねぇ、智……」

「ん?」

ペットボトルに口をつけたままこっちを向いて返事した。

「あと借金、どれくらいなの?俺が働く前からずっとここで働いてるよね?もう、返済終わりそうなの?」

智はグッと水を飲むと、大きく溜め息をついた。

答えは聞かなくてもわかった。

「俺も協力する」

智は俺の言葉に首を横に振る。

「なんで?2人で返していけば、少しでも早く……」

「協力できるレベルの金額じゃない!それにこれは俺の家族の問題だから……」

珍しく智が声を荒げたが、俺も引き下がることはできない。

「でも……でも俺は智の力になりたい。智をこの世界から早く解放させたんだ」


解放なんて綺麗な言葉なんかじゃない。

智の気持ちを知った今、下衆野郎共に智の身体を触れられるなんて我慢できない。


「自分が足を踏み入れた世界……自分で這い上がらないといけないんだ」

その言葉は、智がこの商売に足を踏み入れた時の覚悟を聞いたようだった。


でもその言葉を聞いて、俺も覚悟が決まった。


1人で這い上がる事に時間がかかるなら、俺が手を伸ばして助ける。

2人なら、きっと1人よりも早く這い上がれる。


そして俺なら……智を先に這い上がらせることができる。


例えそれが智を傷つける事であっても。


大丈夫。

俺は絶対に汚れない。


あなたに最初に愛されたから……


俺の心は誰にも愛させない。


あなただけのもの。







次のバイトの日、俺は少し早く出勤して一番奥にある部屋のドアをノックした。


俺があなたを救い出すから……

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