テキストサイズ

数珠つなぎ

第1章 あなたを救いたい

ピンポーン…


お客様の来店を告げる音が今日も聞こえた。

どこのお店だってお客様が来なければ商売は成り立たない。

そしてお客様が来なければ店の収入もなく、俺への給料も支払われなくなる。


それでも毎日来なければと思う。


モニターに映る、ブランドもののスーツを着た男性。


世間では『男前』だの『金持ち』だのと女性が騒ぎたてるんだろうが、俺とってはただの汚い下衆野郎。

お客様と呼ぶことすら、虫唾が走る。


気乗りはしないが何とか仕事と割り切りって通話ボタンを押し、いつもの言葉を言う。

「いらっしゃいませ……合言葉をお願いいたします」



『時は金なり』



「どうぞ、お入り下さい」

俺は施錠を解除するボタンを押した。


このお店は一見さんお断りで尚且つ会員制。

それも高い年会費が発生する上、お店を利用する度に利用料も発生する。

それでもお店には毎日大金が飛び交い、そしてここを訪れる下衆野郎は後を絶たない。


ここにいたら、日本は不景気なんだろうかって思う。


「いらっしゃいませ、今日のメンバーでございます」

受付に現れた下衆野郎に、ファイルを差し出す。

ファイルを嬉しそうに受け取ると、近くの赤いソファーに座り舐め廻すようにそこに挟まれた写真を見る。


その姿に俺は拳をグッと握りしめた。


「今日は……この子にするよ」

あるページを開いたまま受付に来ると、並ぶ写真の中の1枚を指差した。


まだ…だ。


「……かしこまりました」

BOXから鍵を取り出し、カウンターに置く。

それを受け取ると、たくさんある部屋の中から迷うことなく目的の場所へと最短距離で向かう。

その姿を見えなくなるまで睨みつけると、俺は重い足取りであの人がいる部屋へと向かった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ