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数珠つなぎ

第6章 僕らは離れない

【翔side】


「ふぅー」

パソコンに映し出される売上のグラフをジッと見つめる。

時代の変化と共に金融業の売上は右肩下がり。


接待などで利用されていたこの場所も賑わいを無くしていった。

バカ真面目なヤツが正義の味方を気取って、世間で言う『悪の根源』を排除する。

ここを利用していた上客の何人かは、世には出ていないが職を失っていった。

不真面目なヤツがいないことはないが、そいつらも目の前の一時の快感より、形の残るモノや目に見える実績。


そしてここには……リスクしかないという考えだ。


もちろんこの商売に需要がないわけではない。

会員制を辞め、利用できる人の幅を増やせばいくらだって客が寄ってくるし、お金も入ってくる。


でもそれは……絶対にしない。


アイツらは人生を犠牲にしたんだ。

その犠牲を安売りなんてしてたまるか。


今ここで働いているヤツを生み出したのは誰だ?

この腐った世の中じゃないか。


『お金』振り回され、そして家族や大切な人の犠牲になった。


違う道を歩むはずだった人生の橋をこの世の中が壊した。



だからその『金』で……罪を償え。


けどそれも、限界らしい。



プルル…


「もしもし……」


警察関係者の上客から電話。


近々、ここに強制捜査が入るらしい。


アイツらの仕業だろう。


自分たちが捕まってでも、俺を罪に問いたいらしい。



俺も……ここまでか。



アイツらの執念……いや俺が持つことが叶わなかった
『絆』というものに負けたんだ。


でも、わかっていたことなのかもしれない。


パソコンを閉じて、机の引き出しを開ける。

そこには相葉がこの店に来てから用意した茶色い封筒が4つ。

いくら世の中が悪いと言っても俺もその腐った世の中に生きる1人。


不幸な人間を生み出した根源。


俺なりの責任は取る。


でも、絶対に捕まったりはしない。










俺にだって……

少しくらいは、幸せになる権利はあるだろ?

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