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数珠つなぎ

第6章 僕らは離れない

【大野side】


仕事が終わり、シャワーと身支度を済ませるとすぐに店を出た。


早く……

早く和也に会いたい。


その気持ちが足取りを早くする。


和也と付き合いだしてから店のすぐ近くに家を借り、一緒に住むようになった。

1分1秒でも和也と一緒にいたいと思った.


愛してもいない他人に抱かれ、その欲を自ら受け止める日々。

そしてその行為に慣れ、違和感さえ無くして過ごしていた。


それが和也と出会って……

そして和也と愛し合って一変した。




毎日、幸せと苦痛の往復。




『いってきます』が俺たちを幸せから苦痛に突き落とす。

『だたいま』が俺たちを苦痛から幸せへと引き戻す。


それの繰り返しの日々。


自分の事ならいくらでも奥歯を噛みしめ耐えることができる。

俺の親の借金を返済するために仕方のない事だと諦めることが出来た。



でも、和也は違う。



俺の為に他人に抱かれる。

俺の為なら……どうして俺に抱かれない?


そして誰かに抱かれるたびに自問自答する。


俺はどうして愛する人だけと身体を重ねることが出来ない?

愛する人はどうして俺だけに抱かれることが出来ない?


考えたって答えなんて出ない。


和也だって同じことを思っているけど、絶対に口には出さない。


だって俺たちの辛さなんて所詮、ちっぽけなもの。

俺たちよりもずっと長く自問自答を繰り返し、俺たちよりもずっと長く辛い思いをしてきた人を知っているから。



でももうすぐ……すべてが終わる。



少しずつ客足が減ってきた。

これもきっと潤と雅紀が陰で動いているからだろう。


和也が客に初めて抱かれた日、潤がすべで打ち明けてくれた。

そして、俺たちを救いたいと。


俺たちは雅紀や潤に縋りつくしかなかった。


『借金』という手枷足枷を外してくれるのは2人しかいなかった。


それは雅紀や潤も同じだった。


『過去』という手枷足枷を外せるのは俺たちしかいなかった。

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