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ブルームーン・シンドローム

第1章 ブルームーン・シンドローム


 ――違う。

 目を閉じた瞬間、脳内で何かが閃く。

 予感はしていたのだ。ならばなぜ、自分はここまで来たのだろう。なぜ逃げ出さなかった? 自分を誘った理由をなぜ尋ねなかった? この部屋での彼の最終忠告を、なぜ聞かなかった?

 それは自分が、その予感にわずかでも期待していたからではないのか?

 暁人は両手で蒼の肩を掴んだ。

 今だって、この体を弾き飛ばせない理由は――。


「くそっ……」


 暁人は無理矢理唇を離し、蒼の体をベッドへと押し返した。

 その上にまたがり、蒼を見つめる。

 薄い色の口元は、不敵に笑んでいた。

 窓から漏れてくる月明かりを反射し、青白く艶めかしい喉元が暁人を誘う。

 駄目だと思った。これ以上深みにはまったら、きっと引き返せない。

 けれども自分の体はすでに、雄の反応を呼び起こされていた。

 激しい葛藤に暁人の顔が切なげに歪む。

 蒼は暁人の下で体を横たえた体勢のまま、掬うように暁人の表情を見定めている。

 ふいに細い手が伸び、暁人の頬に触れた。

 たった一つのその仕草が、暁人がギリギリの場所でせき止めていた欲望を弾けさせる。理性が千切れる音が、聞こえた気がした。

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