
狼からの招待状
第9章 Sweet night
リンキン・パークの“Numb”
が、流れていた。
重い音に、外のサイレンが甲高く入り交じる。
「グレ」
医学雑誌から、顔を上げる。ひと纏めにした黒髪を軽く揺すり、
「はい」笑顔になった。
「勉強か」「はい」雑誌の表紙に〝薬理と免疫〟の黄色い文字。
「俺も今夜は、本読もう」
古びた棚から1冊抜き取り、ベッドにうつ伏せになり、ページを繰るフライ。
「…グレ」「はい?」
ペーパーバックの本を片手に、「これは、…」「今月の新刊ですよ」黒い表紙に赤いタイトル─"男(アダム)たちの熱い雨"
「グレ」「はい」医学雑誌のページをゆっくりと捲る。
「新刊…」「あ、先月のは…棚の下の扉─」「グレ」「はい」
"蒼い薔薇の罠""君は甘い棘"のタイトルの本を手にして、驚いたようにフライを見た。
「グレ」新刊の裏表紙を返して
、「来月の配本は、"濡れた砂と青年"…"罪深き夏のオペラ"だ…」「面白そう」黒髪から、爽やかにコロンが香る。
「そうだな」「`St.アダム・シリーズ,毎月の配本が、楽しみなんです」フライの隣に掛けた。
「そうか。グレ」「はい」「少ない小遣い…有効に遣え」「はい」─笑顔になる。
医学雑誌を脇にして、「…特に僕。これ気に入ってて…」奥から1冊取り出す。タイトルに″花兄弟″とあった。
「ロマンティック─古典派かな?」「現代ものです」ぱらぱらとページを捲る音。
「医療ものなんです」「サスペンス?」「いいえ、弟が兄を看るんです」「へえ。…」フライの自然にうねった髪に、ベッドサイドの光が当たり、微妙な曲線が反射する。
グレは頷き、「献身的な…それでいて、謙虚で愛らしい弟なんです」グレはそう云いながら、ページを開く。
「読んでくれよ」ごろりと横になるフライ。
「はい、…〝ドアがノックされ、『出てみろよ』『兄さん。気分が…』『今朝は良いよ』兄は欠伸混じりに云った。弟が開けたドアから、香水の匂い。『あのう…』朝の挨拶もロクにせず、病室のなかを覗きこむ。隣の部屋の患者の妻だった。…〟」「とばせ」「え?」「女はいらない」笑い声をグレは立てた。
「それなら…〝看護士の男は親しげに弟の肩を、叩いた。笑みを返す弟。楽しげに談笑する二人を、兄は病室の窓からじっと見下ろす…〟」
口元に微笑いを浮かべながら、フライはグレの声を聴いている。
が、流れていた。
重い音に、外のサイレンが甲高く入り交じる。
「グレ」
医学雑誌から、顔を上げる。ひと纏めにした黒髪を軽く揺すり、
「はい」笑顔になった。
「勉強か」「はい」雑誌の表紙に〝薬理と免疫〟の黄色い文字。
「俺も今夜は、本読もう」
古びた棚から1冊抜き取り、ベッドにうつ伏せになり、ページを繰るフライ。
「…グレ」「はい?」
ペーパーバックの本を片手に、「これは、…」「今月の新刊ですよ」黒い表紙に赤いタイトル─"男(アダム)たちの熱い雨"
「グレ」「はい」医学雑誌のページをゆっくりと捲る。
「新刊…」「あ、先月のは…棚の下の扉─」「グレ」「はい」
"蒼い薔薇の罠""君は甘い棘"のタイトルの本を手にして、驚いたようにフライを見た。
「グレ」新刊の裏表紙を返して
、「来月の配本は、"濡れた砂と青年"…"罪深き夏のオペラ"だ…」「面白そう」黒髪から、爽やかにコロンが香る。
「そうだな」「`St.アダム・シリーズ,毎月の配本が、楽しみなんです」フライの隣に掛けた。
「そうか。グレ」「はい」「少ない小遣い…有効に遣え」「はい」─笑顔になる。
医学雑誌を脇にして、「…特に僕。これ気に入ってて…」奥から1冊取り出す。タイトルに″花兄弟″とあった。
「ロマンティック─古典派かな?」「現代ものです」ぱらぱらとページを捲る音。
「医療ものなんです」「サスペンス?」「いいえ、弟が兄を看るんです」「へえ。…」フライの自然にうねった髪に、ベッドサイドの光が当たり、微妙な曲線が反射する。
グレは頷き、「献身的な…それでいて、謙虚で愛らしい弟なんです」グレはそう云いながら、ページを開く。
「読んでくれよ」ごろりと横になるフライ。
「はい、…〝ドアがノックされ、『出てみろよ』『兄さん。気分が…』『今朝は良いよ』兄は欠伸混じりに云った。弟が開けたドアから、香水の匂い。『あのう…』朝の挨拶もロクにせず、病室のなかを覗きこむ。隣の部屋の患者の妻だった。…〟」「とばせ」「え?」「女はいらない」笑い声をグレは立てた。
「それなら…〝看護士の男は親しげに弟の肩を、叩いた。笑みを返す弟。楽しげに談笑する二人を、兄は病室の窓からじっと見下ろす…〟」
口元に微笑いを浮かべながら、フライはグレの声を聴いている。
