テキストサイズ

ここから始まる物語

第11章 幸せの終わり、不幸の始まり。

「失礼するよ」
 そう言いながら部屋へ入ってきたのは、なんとピスティでした。
 ぐったりと力の抜けた身体に、にわかに力がみなぎってきます。その力の源は、嬉しさでも喜びでもなく、怒りと悲しみでした。
 レナはベッドから立ち上がると、入ってきたピスティを睨みつけました。
「なによ!」
 胸に渦巻く黒い感情が、今にも爆発しそうです。そんな気持ちをおさえていると、ピスティはしおらしい声で言いました。
「さっきは、悪かったよ」
 心を入れ替えたのでしょうか。爆発しかけていた怒りと悲しみは、少しだけ冷えました。
「何が?」
 心が揺れないように、レナは問いかけます。
「夕方は言いすぎた。レナ、きみに『わからず屋』なんて言ってしまった。本当にごめん」
 照れ隠しなのか、ピスティは謝りながらも、視線をはずしています。
 レナは、ピスティの次の言葉を待ちました。
 しかし、どれほど待っても、ピスティは何も言いません。じれったくなって、レナは問いかけてみました。
「ほかに、言いたいことはないの?」
「え? ほかに?」
 ピスティは目を丸くしたかと思うと、うーんと唸って、
「他って、なんのこと?」
 と反対に問い返してきました。
 いったんはおさまった怒りが、ふたたび膨らみはじめます。
「ふざけないでよ!」
 謝ってほしいことは、そんなことではありません。あのコーリーという女に恋文を渡していたことを謝ってほしかったのです。いや、謝らないまでも、それを認めてくれるだけでも、レナはよかったのです。
 なのにピスティは、その肝心な部分だけは認めません。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ