テキストサイズ

ここから始まる物語

第16章 フォビスメノスの野望

 幸せになったはずのアウィーコート王国では、不思議なことが起きていました。
 大きな家が建ち並び、病人は元気になり、食べ物にも着るものにも困らなくなっていたのですが、なぜか、ほとんどの人が、毎日をいらいらしながら過ごしていたのです。
 道を歩いていて、ちょっと肩が当たっただけでも殴り合いの大喧嘩。また、愚痴を言うと、多くの人がそれに乗っかって、一人の人間を追い込むこともありました。反対に、愚痴を言った人が大勢に責められることもありました。
 誰もが、誰かを責めたくて仕方のない気分になっていたのです。
 若者が年寄りを蔑み、年寄りは若者を見下し、男は女を罵倒し、女は男を非難し、美しい人は醜い者を嗤い、醜い人は美しい人を憎んでいました。もっとも、醜いと言われた者でも、魔法の力で美しい姿になることができるので、みんな、見た目はほとんど変わりはないのですが、その、ほんの小さな違いでも、他人と比べては落ち込んだり喜んだりしているのでした。
 誰もが少しずつ誰かから傷つけられ、誰もが少しずつ誰かを傷つける――アウィーコート王国は、いつしかそんな世界になっていたのです。
 こんなに居心地が悪いなら、「居心地のいい暮らしをしたい」と願えば済みそうなものですが、そんな願いを口にする者はいませんでした。なぜなら、すべての願いは叶えられるのだから、居心地が悪いはずがないと、誰もが勘違いしていたからです。

 ※

 さて、城下街に、一人の男が住んでいました。
 この男は、年寄りからは見下され、女からは非難され、美しい人からは嗤われて、とても幸せとは言えない気分で毎日を送っていました。
 今まではなんとか耐えてきましたが、この日の彼は少し違いました。
 朝、目を覚まして外へ出てみると、家の前にたくさんのごみが積まれていたのです。このごみの山は、彼をよく思わない人びとが嫌がらせに置いたものでした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ