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ここから始まる物語

第21章 断章

 そこは薄暗い部屋でした。と言っても、明かりがないわけではありません。蝋燭が灯っています。しかし部屋が広すぎるので、灯りが隅々には行き渡らないのです。
 そんな心もとない光に照らし出されるのは、大理石で作られた床も壁でした。天井は見えません。あまりに高いせいで、あかりが届かないのです。
 そんな、広くて薄暗くて冷たい部屋に、フォビスメノスはいました。恨みを晴らしたい――その一心で。
 アウィーコート王国では、弟のピスティと対立して、さんざんな目に遭いました。王位から退けられ、貧しい生活に陥り、ピスティへの反対勢力を集めて仕返しをしようとしましたが、レナを殺すことが出来なかったせいで信頼を失い、袋叩きにあってしまいました。
 考えてみれば、アウィーコートでのフォビスは、失敗ばかりです。
 だから、フォビスは、エカタバガン帝国へ来たのです。恨みを晴らすために。
 ここは、エカタバガン帝国の城。その応接間に、フォビスはいます。
 皇帝は目の前にいるのですが、姿はほとんど見えません。高い所に座っているので、蝋燭の明かりが届かないのです。見えるのは、椅子に座っている膝から下のみ。
 ほかにも、皇帝の腹心や大臣や将軍などが並んでいるようですが、やはり膝から下しか見えません。
 まるで、魔界の裁判に引きずり出されているかのような気分です。
「ではフォビスメノス。皇帝陛下に申しあげろ。どうしてエカタバガン帝国へ来たのかを」
 そう言ったのは、フォビスの横に立っている男でした。
 男の名前はアビナモス。
 長めの髪。てっぺんだけつるりと禿げあがった頭。痩せこけた頬。貧弱な中年の男です。
 この男、もうご存知かとは思いますが、ピスティに山賊と間違われて敗走したことのある将軍です。また、アウィーコート戦役でも、ピスティと仲間たちに騙されて、誤って撤退してしまったこともあります。

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