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第22章 最後の戦い

【それぞれの決意】
~フォビスメノスの場合~

 馬に乗りながら、フォビスはせせら笑っていました。
 といっても、もちろん声に出して笑った訳ではありません。心の中でこっそり笑っていたのです。
 フォビスはエカタバガン軍の補佐です。皇帝から命じられた身分です。隣りに馬を並べているアビナモスは、きっと自分のことを邪魔だと思っているに違いありません。
 そのせいでしょう。アビナモスは、どこに本陣を置くべきか、という大事な相談をフォビスに持ちかけてきました。
 フォビスは、偽物の本陣と本物の本陣を分けておいておくのがいい、と答えました。しかし、これは戦争においてはほとんどの場合に言えることで、考えるまでもないことです。ところが、アビナモスはそれを満足そうに受け入れました。
 その理由が、フォビスには手に取るようにわかりました。もし失敗したらフォビスに責任を押し付けて始末しようというつもりでしょう。反対に、もし成功したら、手柄を自分のモノにするつもりに違いありません。
 そんな浅はかな考えをさとって、フォビスはせせら笑ったのです。
 成功しようが失敗しようが、どちらが提案したかなど証明する方法がないのです。本当は責任の所在を明らかにするための目付がついているはずですが、今回はいません。きっと皇帝としては、この遠征は遊びのようなものなのでしょう。失敗しようが成功しようが、どうでもいいのです。
 目付がいないとなれば、責任は作戦を命令できる唯一の人物――つまり将軍であるアビナモス――にそっくり帰ってしまうのです。
 もちろん、アビナモスが本心で何を考えているのかはわかりませんが、フォビスは自分の想像もあながち外れてはいないだろうと自信を持っていました。
 それはともかく――。
 フォビスとしても、この戦いには負けられません。

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