テキストサイズ

ここから始まる物語

第24章 ここから始まる物語

 ひとまわり成長したピスティは、城のてっぺんの部屋で、レナと二人きりになっていました。
 すでに日は暮れています。
 二人は並んで、窓から外の景色を眺めていました。
 街は闇に沈んでいますが、あちこちに灯火が瞬いています。人びとがそこで暮らしている証拠です。
 静かな、そしてどこか暖かな景色を見たまま、レナが変なことを言いました。
「もしも私たちが物語の登場人物だったら、その物語はとびっきり奇想天外な内容になるわよね」
「そうかもしれないね」
 月夜に照らされた、青白いレナの横顔を見ながら、ピスティはそう答えました。
「冒険に裏切りに戦いに野望に、いろんなことがあったからね」
「これから、この国は――この街は――」
 レナは言葉を選んでいるのか、たどたどしい調子で何かを言いかけているようでしたが、急に大きく首を振ると、何かを決意したかのように、こう言いました。
「私たちは――これからどうなるのかしら」
 それは、ピスティにとっても心配なことでした。この幸せな時間は、ひょっとしたら五年しか続かないかもしれないのです。そして、もしもその時間を永遠にしようとするなら、また新たな困難に立ち向かわなくてはならないかもしれないのです。
 しかし、ピスティはあえて笑みを浮かべました。
 五年後を心配する気持ちは、ピスティよりもレナの方が強いと思ったからです。ここでピスティが暗い顔をすれば、レナはますます落ち込んでしまうでしょう。
「どうなるかなんて、わからないよ」
「そう、だよね」
 どことなく塞ぎ込んだ様子で、レナは頷きました。
「落ち込んでいるようだね」
 そんなレナの背中を、ピスティはそっとなでます。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ