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ここから始まる物語

第6章 出逢い

 ここは、どこなのでしょう。
 ピスティは、気づくと薄暗い部屋の中にいました。床も壁も天井も、みんな石でできていて、冷たい感じのする部屋でした。
 天井の近くに小さな窓があって、そこからわずかに光が差し込んできます。光はそれだけ。他には蝋燭の一本もありません。
 それにしても頭が痛みます。気を失っていたせいでしょうか。
 痛みをこらえてぐるっと部屋を見渡すと、後ろの壁に大きな扉があるのをみつけました。すぐにでも飛び出したい気持ちになりましたが、そうはできませんでした。
 というのも、目の前に、見知らぬ少女が立っていたからです。ピスティは床に座り込んだ体勢のまま、その少女の顔を見あげています。
「きみは・・・・・・」
「わかんない!」
 ピスティの問いかけに、少女は顔を横に振りました。
「記憶が、ないのかい?」
「違うわ。私には、過去がないの」
「過去がない?」
「そうよ。私が生まれたのは、ついさっきのことよ、たぶんね。だから過去がないの」
「からかっているのかッ?」
 ピスティは立ち上がって、少女の顔を睨みつけました。が、すぐに怒りはどこかへ行ってしまいました。
 少女の体はピスティよりも小柄だったからです。自分よりも弱い相手と喧嘩をする気にはなれませんでした。それに、何より、少女の顔立ちがとても可愛らしかったのです。白い肌に黒い髪。つぼみのような唇はつんと尖っていて、気が強そうです。二重の目も目尻が釣り上がっていて一見厳しそうですが、大きな黒い瞳がくるくるとよく動く様子は、まるで子猫のようです。
 そんな顔を睨んでも、かえって見とれてしまうばかりです。ピスティは、少女の顔から目をそむけました。
 そんなピスティの戸惑いを、少女は感じ取ったのでしょう。おそらく、わざと、居丈高な態度を取りました。
「からかってなんかいないわ。私は、あなたを助けてあげたのよ。感謝しなさい」
「嘘を言うなッ」
「本当よ。もし嘘だというなら、どうしてあなたは傷ひとつ負わずにすんでいると思うの?」

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