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ここから始まる物語

第7章 脱出

「なんて迂闊なことをしてしまったんだろう」
 王になれなかったのが悔しいのではありません。兄に負けてしまったことが悔しいのです。
 ピスティは、地面に拳を打ちつけました。
 まわりを見回しますが、すでに人はいません。儀式のために用意されていた的も、矢も、何もありません。もちろん見物人の姿も、もうありません。
 平地がだだっ広く拓けていて、その向こうの森がさやさやと揺れているばかりです。
「でもよう、ピスティさまのおかげで、見物人たちは助かっただよ」
 ライが横で呟きました。
「その通りですな。ピスティさまは儀式では敗れてしまったものの、王たる者のとるべき行動をお取りになりました。まことの王者はピスティさまと心得まする」
 ゲンはしみじみと言いました。
「そうだそうだ! 本当の王さまはピスティさまだだよ!」
 ライは、急に立ち上がったかと思うと、ピスティの身体を抱きあげました。
「よせ、何するんだ」
 いくらピスティでも、ライの怪力にはかないません。されるがままにしていると、ライはピスティの身体を宙に放りあげました。
「うわあ!」
 浮いた身体が、落ちていきます。それをライが受け止めて、また上に放りあげました。
「やめろ!」
 ピスティは止めましたが、ライの行動にゲンも加わりました。一緒になってピスティの体を放りあげては受け止めます。
「やめろ! やめろって!」
 ピスティは嫌がりながらも、頬が緩むのを感じていました。二人は、儀式で敗れてしまったピスティを励ましてくれているのです。
「やめろ! やめろって! 助けてくれ、フウ!」
 宙に浮いたまま、ピスティはフウに助けを求めましたが、フウは、
「呵呵大笑」
 と腕を組んで見守るばかりで、助けてはくれません。

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