ゆらぎ
第1章 定かでないもの
夢をみる
平屋の一室には安いカーペットが敷かれ
星の意匠の入った窓は真っ白だ
あぐらをかいて
ブラウン管の小さなテレビに向かっている
無口で武骨な俳優が
涙も流さず死ぬことが
人知れずして死ぬことが
これ美徳として描かれている
名前も知らない偉い人の慰問は
黒塗りの車が通りすぎただけで
僕は長い間やめていた
煙草をそっと消して
顔の見えない黒の硝子に頭を下げる
妙に腹の座った午後に
玄関のベニアを張ったようなドアが開く
そこには大柄の日焼けをした男が
そのよれた白いティーシャツを正装のように
着ていて、他数人を従えている
彼らは型板にステンレスをいびつに張った
棺桶を
そう強引に
もって入って僕の横に
乱雑に置く
僕はテレビを観ているふりをして
横目に棺桶を見やる
黄色いウレタンが詰まり
人型に焦げて
なにやら黒や焦げ茶色の骨片や布切れが
散乱している
準備はできましたか?
何かしたいことはありますか?
男は僕に言う
にやにや笑っている
隠さず、下品に、ことさら下品に
嘲っている
それが礼儀のように
死ぬのか
妙に冷静に
自分の立場を理解する
この使い回しの棺桶を
どのように使うのかは知らない
でも僕はこれから死ぬのだ
それだけを理解する
家族の顔
家族の顔
この下卑た案内人に従わざるを得ないのは
なにやら逆らえないのは
本能的にわかっている
でも
家族の顔
家族の顔
僕の心に浮かんでいる
家族に会いたい
唐突に口に出る
えっ?
男が驚いた顔をする
手下もざわつく
うそでしょう?
会っていなかったんですか?
会えないわけもないですが
これまでたくさん時間があったでしょう?
ほらお前達、連絡をとってあげなさい
この人はこれから死んでしまうのだから
これまでたくさん時間があったのに
もうこの人は少ししか家族に会えないのだから
僕はテレビの俳優をならって
動じないフリを続けている
でも、どうしようもない
泣き虫の僕は
涙がこぼすのだ
僕はそこで目を覚まし
開けていた窓から
冷気と一緒に
死神が入ってきていたのだと
死に関する神が入ってきていたのだと
身震いをして
そっと窓を閉める
今夜も長く
時間の感覚は掴めないまま
確実に死に向かって
時間は経っていくというのに
眠れない夜を
雨音を聞いて過ごすのだ
平屋の一室には安いカーペットが敷かれ
星の意匠の入った窓は真っ白だ
あぐらをかいて
ブラウン管の小さなテレビに向かっている
無口で武骨な俳優が
涙も流さず死ぬことが
人知れずして死ぬことが
これ美徳として描かれている
名前も知らない偉い人の慰問は
黒塗りの車が通りすぎただけで
僕は長い間やめていた
煙草をそっと消して
顔の見えない黒の硝子に頭を下げる
妙に腹の座った午後に
玄関のベニアを張ったようなドアが開く
そこには大柄の日焼けをした男が
そのよれた白いティーシャツを正装のように
着ていて、他数人を従えている
彼らは型板にステンレスをいびつに張った
棺桶を
そう強引に
もって入って僕の横に
乱雑に置く
僕はテレビを観ているふりをして
横目に棺桶を見やる
黄色いウレタンが詰まり
人型に焦げて
なにやら黒や焦げ茶色の骨片や布切れが
散乱している
準備はできましたか?
何かしたいことはありますか?
男は僕に言う
にやにや笑っている
隠さず、下品に、ことさら下品に
嘲っている
それが礼儀のように
死ぬのか
妙に冷静に
自分の立場を理解する
この使い回しの棺桶を
どのように使うのかは知らない
でも僕はこれから死ぬのだ
それだけを理解する
家族の顔
家族の顔
この下卑た案内人に従わざるを得ないのは
なにやら逆らえないのは
本能的にわかっている
でも
家族の顔
家族の顔
僕の心に浮かんでいる
家族に会いたい
唐突に口に出る
えっ?
男が驚いた顔をする
手下もざわつく
うそでしょう?
会っていなかったんですか?
会えないわけもないですが
これまでたくさん時間があったでしょう?
ほらお前達、連絡をとってあげなさい
この人はこれから死んでしまうのだから
これまでたくさん時間があったのに
もうこの人は少ししか家族に会えないのだから
僕はテレビの俳優をならって
動じないフリを続けている
でも、どうしようもない
泣き虫の僕は
涙がこぼすのだ
僕はそこで目を覚まし
開けていた窓から
冷気と一緒に
死神が入ってきていたのだと
死に関する神が入ってきていたのだと
身震いをして
そっと窓を閉める
今夜も長く
時間の感覚は掴めないまま
確実に死に向かって
時間は経っていくというのに
眠れない夜を
雨音を聞いて過ごすのだ