奇跡を信じて
第10章 大地の病院へ
翌日からジャガーズは、東京パイレーツとの3連戦があったが、1勝2敗で負け越してしまった。
ほとんどの野球評論家の予想では、今年も東京パイレーツが有力であった。
先日のテレビ中継では、辛口で有名な評論家の久米が、
「今年もジャガーズは、いいところで4位ぐらいでしょうね。田村も今年がだめだったら、来年はないでしょう。彼もここ数年、成績も思わしくなかったから、そろそろ潮時でしょう」と言っていたのだ。
私(田村)はパイレーツとの試合を終え、翌日、名古屋へ向かう予定であったが、その前に立ち寄るところがあった。私は平田コーチに、新大阪駅までは私用のため、どうしても他の選手と一緒に行くことができないと伝えた。当初、平田は反対したのだが、何とかお願いをして了解をもらった。最後に、平田は遅くとも16時には新大阪駅に着くように念を押した。 私は平田に礼を言い、例の病院へタクシーで向かった。
病院へ着いてから、受付のところで私は肝心なことを忘れてしまっていた。
あの時、私が年配の女性に会った時、彼女の孫の名前は覚えていたのだが、名字を忘れてしまっていたのだ。(大地)という名前しか思い浮かばなかったのだ。
「5~6歳ぐらいの男の子で、名前は大地君というのですが、病室を教えて頂けないですか?」と私は受付の女性に尋ねた。
「申し訳ございませんが、それだけではお調べすることができません。もし、分かったとしても、ご家族以外の方ですと面会はできないですね」とその女性は言ったため、
「そうなのですか?では、仕方がないですね」と私は言い、残念だが帰るしかなかった。
私はあきらめてその病院を出ようとした時、正面玄関近くであの女性を見つけた。
私は小走りで女性に近づくと、
「あの、失礼ですが私のことを覚えておられますか?」と尋ねると、
「もちろん、覚えていますよ。でもどうして、こんなところにおられるのですか?」と驚いた表情で明子が言った。
「大地君に会いに来たのですよ」と私は言うと、
「ほんとうに大地に会いにきてもらったのですか?」と明子が言った。
「この前、約束したじゃないですか」と私が言うと、
「ありがとうございます。でも、正直、来てもらえると思わなかったので驚いています。大地もきっと喜ぶと思います」と明子が言った。