奇跡を信じて
第14章 田村の停止処分
帰りの新幹線で、田村は平田に大地とホームランの約束をしてしまったことを話した。
「外国映画の見過ぎじゃないか? 昔、ベーブ・ルースが、ある子供とホームランの約束をしたが、一本しか打てなかった。なのに、お前は二本だぞ!」と平田が言った。
その二日後、田村は広報担当の安井に呼ばれ、事務所へ入った。
「安井さん、試合前に何か急用なことでも?」と私が尋ねると、
「確かに急用なことだ。結論から言うよ。田村君、今日から一週間、停止処分になった」
「俺は、怪我なんかしていませんよ」と言うと、
「怪我のほうがましだよ。明日の写真週刊誌に、君の記事がでることになった」と安井が言った。
「一体、何の話ですか?」と私は尋ねると、
安井は、その記事のコピーを田村に見せた。その記事の内容とは、
(ジャガーズの田村が、白昼に病院へ行き、見ず知らずの患者を見舞っている。売名行為か? 今年の田村の引退を回避するための策略か?)
そして、田村がその病院を出るところを、撮られていたのだ。
「認めるよね?言い訳があれば聞こうか?この件については、監督にはすでに伝え済みだから」と安井は淡々と言った。
「何もありません。ご迷惑をかけました」と田村は言い、その部屋を出た。