奇跡を信じて
第35章 大地の退院
翌日、幸雄が田村へ何度か連絡をとったが、取材やテレビ出演等で連絡がとれなかったため、ジャガーズの広報から連絡を受けた田村が、大地の自宅へ連絡を入れたのは、夜の10時を過ぎていた。電話口にはひとみの声がした。
「夜分、失礼します。田村と申します。何度か電話を入れて頂いたのに、連絡が遅くなりまして申し訳ございませんでした。ところで、その後、大地君の容態はいかがでしょうか?」と田村は尋ねると、
「実は奇跡的に大地は助かりました」とひとみが言うと、
「本当に大地君は助かったのですか?」
と信じられない気持ちで、田村は確認をしたのだ。
「はい、いろいろとご心配をして頂きまして、ありがとうございました」
「いえ、でも、ほんとうに良かったですね」
「ただ一つ、気になったことがありまして」
とひとみは不安そうに言った。
「何かあったのですか?」と田村は尋ねると、
「昨日、田村さんが最後にホームランを打った後に、大地の意識が戻ったのですが、その時、大地が夢で田村さんにホームランを打ってくれるように約束をしたと言ったのです」
それをひとみから聞いた田村は非常に驚き、正直に、
「実は、私も以前に大地君が見た同じ夢を見たのです。その時に、私は確かに大地君と約束をしました。私がホームランを打って、一番になるということです。約束が守れて良かったです。大地君が退院されたら、また会おうねと伝えて下さい」
「そんなことがあったのですか? 田村さんと大地の話が偶然な事だったかもしれませんが、田村さんには、大地の約束を守って頂いたことに大変感謝をしています。大地が退院しましたら、必ず連絡を致します」とひとみが言い、田村は電話を切った。
そして、大地は二週間後に奇跡的に退院することになったのだ。