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だから愛して 「改訂版」

第1章 だから愛して 「改訂版」

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 タクシーが智さんの家に近づきましたので、もうすぐ着きますと、智さんに電話しました。
 タクシーが止まりますと、智さんがいつものように運転手さんに四千円を渡して、これでいいですよと言っています。
 わたし、タクシーから降りまして、
 「おはよう」
 「おはよう」
 と、挨拶をしました。
 智さんの家にあがりますと、優しくハグをしてくれました。
 「来たよ」
 「いらっしゃい
  待ってたよ」
 そのまま、軽くチュッとキスをしてくれました。
 「さやかちゃん
  きょうも
  抹茶で
  いい?」
 「うん
  抹茶を飲むと
  智さんに
  逢えたんだなと
  思うもの」
 智さんが、志野のお茶碗で抹茶を点ててくれました。
 コーヒーも、紅茶も、玉露もありますが、このごろは抹茶を点ててもらっています。
 智さんは、わたしが抹茶を飲むのを嬉しそうな顔をして見ています。
 わたしが飲み終わりますと、智さんも飲みたいと言って点てました。
 智さんは、お茶碗を洗ってわたしの前に腰掛けまして、
 「さて
  きょうは
  なにからしようか」
 「なにからって
  決まってる
  智さん
  愛して」
 「いまから
  すぐ愛して
  いいの?」
 「だって
  わたし
  そのために
  来たんだもの
  だから
  愛して」
 智さんは、いつも、
 「すぐ愛して
  いいの?」
 と言うのです。
 まだ朝の十時なのだから、しかたないかもしれません。
 そんなところに、智さんの年令からくる、はにかみというかたしなみというか、そんなものを感じます。

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