不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第1章 樹が生まれた日
---…雨が降っている。
早朝から降り続く雨は止む気配がなく、空はどんよりと灰色に濁っていた。
フミのいない自宅で荷造りをしていた私は、一息つこうとキッチンへ向かう。
私専用のマグカップにミルクを入れ、電子レンジに放り込む。
あたためている間、食器棚に目をやり、おもむろに皿を取り出した。
ペアになったものや私が買い揃えたものはすべてダンボールに詰め、マジックペンで「ワレモノ」と書く。
”チン!”
あたたかいミルクをすすりながらリビングのテーブルを見ると、この間私が置いていった離婚届と置き手紙がそのまま放置されている。
あれから電話やメールもなく、今日もいつもどおり仕事に出かけたと思われるフミは、今なにを思っているのだろう。
いつしか彼の考えていることが少しも分からなくなり、歩み寄る事もお互いなくなっていた。
このまま黙って出ていって話が終わるのならそれは楽だけれど、1人で暮らすには少しばかり広いこのアパートの事や、ほとんど使われることのなくなった2人共同の銀行口座、家族用のクレジットカード、家具家電…
話し合うべき事が沢山ある。
正直すべて解約して、家具家電は要らないし、最低限の取り決めだけで終わりにしたい。
きっと、別れるとなればフミもそう思うだろう。
しかし離婚するけじめとして、最後くらいきっちりと終わらせたいような気もするのだ。
今日フミが帰ってきたら、なんて切り出そう…。
そう考え始めた時、ケータイが鳴った。紗奈からだ。
「もしもし?私。どうよ引越しは?」
「ぼちぼち荷造りやってるとこ~。紗奈はどう?いっちゃん元気?」
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同級生で温泉旅行に行ったあの日から2週間後、紗奈は”いっちゃん”こと樹(いつき)を出産した。
予定日までまだ少し日があったのもあり、そのとき私は瀬川くんのアパートにいた。
代休で月曜日も休みだった瀬川くんに甘え、泊まるつもりで夕食もお風呂も済ませ、これから少しお酒でも飲もうかという夜9時過ぎ頃、紗奈から着信が入った。
「もしもし紗奈?なんかあった?」
お姉さんと二人暮らしとはいえ、仕事に出かけると紗奈は1人になるので、私たちバラ組は出産を間近に控えた紗奈のことをいつもより気にかけていた。