不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第1章 樹が生まれた日
「もしもしっ…う~~~、陣痛きたっぽくて今タクシー呼んだ!」
「大丈夫?!歩けるの?!」
「陣痛がおさまると…ふぅっ…歩けるんだけどっ…いてぇ~!」
私は時計を確認し、
「まだ電車あるかな?」
と瀬川くんに聞いた。
ここは田舎で、終電の時刻も把握していなかった。
「ある…とは思うけど、どうした?なんかあった?」
「紗奈が陣痛きたって!」
それを聞くと瀬川くんはすぐに私の上着や自分の財布などを準備し始める。
ケータイの向こうで唸る紗奈。
「今からすぐ病院向かうね!なんかあったらすぐに電話して。それともこのまま電話つなげておこうか?」
「うぅ~っ、いててて…ふぅ、大丈夫…ふぅ…」
私はケータイを耳に当てながらもルームウェアをジーパンに履き替えた。
「タクシー来たら、っ…部屋まで来てくれるって…うぅーッ!」
「分かった、じゃあそれまで電話つなげておこう。紗奈、頑張ろう!ね!」
気が動転している私の様子を見て、瀬川くんは背中をさすり「行ける?」と小声で言う。
私は頷くと、2人で一緒に玄関を出た。
車が発進して5分ほど経った頃。
「あっ!タクシー来た。行ってくるわ…!」
「うん、私も急いで行くから。バラ組にも伝えとく。あとでね、紗奈!」
電話を切って短い息を吐き出すと、瀬川くんはまた背中をさすってくれる。
「あぁ、ビックリした。はぁ~~」
意味もなく抱きつくと、彼はふふっと笑って私の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
「俺、ちょうど実家に用もあるし車で病院まで送るわ。高速で飛ばせば23時には着けると思う」
「ほんと?ありがとう…ごめんね、遅くに」
「なんで謝るんだよ(笑)赤ん坊が時間とか気にして生まれてきたらおかしな話だろ」
「あは、たしかにそうだよね(笑)」
夜の高速道路はすいていて、あっという間にインターを降りた。
「なんか買ってく?」
コンビニに寄ると、どうしていいか分からずとりあえずヨーグルトや栄養ドリンクをカゴに入れた。
瀬川くんはコーヒー、私はほうじ茶を。