不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第6章 名前のない関係
その夜、私は瀬川くんと2人で韓国料理店に来ていた。
「そんで、チーズタッカルビって結局なんなの?」
「ううん…実は私もよく分かってないんだけど(笑)鶏肉にチーズが乗ってるっていう…」
「ふふっ。お前、焼き鳥とチーズが好きって言ってたよな。じゃあチーズタッカルビ、多分すげえ好きじゃん(笑)」
「うん、期待してる(笑)」
テーブルにそれが届くと、コチュジャンなどで味付けしてあるような赤く染まった鶏肉に、これでもかという程のチーズが乗っている。
「う…わぁ!すごーい!」
私は携帯で写真を撮ると、バラ組のトークルームに送信した。
「っていうか俺、韓国料理もろくに食べたこと無いのにいきなりヘビーすぎない?(笑)」
「えっ本当?私、韓国料理好きだなぁ。自分でもキンパとかよく作るよ」
「キンパ?」
話しながら小皿に瀬川くんの分を取り分ける。
「-なるほどな。キンパ…じゃあ、今度食わせてな」
そして初めてのチーズタッカルビを2人で頬張り、そのパンチにまた笑い合った。
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「胃がもたれたから、…レモンスカッシュ飲もう(笑)」
「あ、俺も(笑)」
瀬川くんと過ごす時間はこれ以上無いほど楽しく、心が潤う。
文句のつけようがない彼に対し、独占欲に襲われそうで怖くなる。
得てしまうと失うことを恐れ、手を握り合うことさえ臆してしまう。
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韓国料理店を後にし車に乗り込む。
「そんじゃあ、風呂に入らないとな」
瀬川くんが言い、車が走り出した。
時刻は19時過ぎ…
「瀬川くん、明日仕事でしょう?まだ帰らなくていいの?」
「ん、大丈夫。お前を風呂に入れて送り届けたら帰るよ」
微笑みながら運転する彼の言葉を聞き、分かっていた事なのに途端に寂しくなる。
また何日か…何週間か、会えない日々が始まってしまう。
車がたどり着いたのは日帰り温泉施設らしく、木目の外装がぼんやりとライトアップされている。
「こんなところあったの、知らなかった!」
「俺も、平野に聞くまで知らなかった(笑)」
館内に入ると個室の温泉に案内され、そこは5〜6人は入れそうな檜風呂だった。