テキストサイズ

不純異性交際(下) ―それぞれの未来―

第23章 あじさい旅行


何枚かアジサイの写真を撮ると、私は思い切って言ってみた。


「瀬川くん、写真…撮らない?」


「お、撮ろうか」


インカメラで私が携帯を持つと、背の高い彼が背中を曲げてなんとか映り込む。


その姿が愉快で私たちはケラケラと笑い、なかなかに良い写真が撮れた。


だいぶ歩いた頃、雨がぽつっと頬に落ちた。


「あれ?雨かなぁ?」


「降ってきた?…あ、ほんとだ」


私たちは大ぶりになる前にと、寺を後にして宿へ急いだ。



しかしだんだんと雨は強まり、結局宿に着いた頃にはかなり濡れてしまっていた。


ガラガラと宿の扉を横へ引くと、チリーンと鐘の音が鳴り、奥から女将さんが出てきた。


「ようこそいらっしゃいました…あらら、降られちゃいましたか。今タオルをお持ちしますね!」


面倒見の良さそうな女将さんはサッとタオルを手渡してくれると、「濡れてるのにごめんなさいね、チェック
インだけ…こちらにお名前と…」と言って瀬川くんに署名の指示をする。



「はい、恐れ入ります。それじゃあお部屋ご案内致します」


案内された館内は古いながらも清潔にされていて、暖色の灯りが木目を美しく映し出していた。



「温泉は1階です。もう入れますから、お体温めてくださいね」


部屋に入り、女将が去ると私たちは互いの濡れた洋服を見て笑った。



「良いお部屋だね。瀬川くん、予約ありがとう」


クローゼットの中には浴衣が2枚揃えられていて、私はそれを取り出す。


「風邪引いちゃうから、お風呂いこっか?」


振り向くと、瀬川くんも立ったまま「そうだな」と答える。


着替えを持って大浴場へ向かい、また出口で待ち合わせをすると瀬川くんは男湯、私は女湯へ入った。



大きな石で組まれた浴槽から湯気が立ち込め、とてもいいお風呂だった。


瀬川くんと一緒に入れたらな…と考えながら、私は浴衣を着た。




女湯ののれんをくぐって廊下に出ると、瀬川くんは木の長椅子に座っていた。


「今回も待たせちゃった、ごめんね」


「待ってないよ(笑)」


ストーリーメニュー

TOPTOPへ