不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第23章 あじさい旅行
6月最後の週末、私は朝からバタバタと駆け回っていた。
家を出て早足で駅へ向かう。
電車に乗り込み、瀬川くんと待ち合わせの駅に着くまで私は息を整えながら目を閉じた。
結局、コウヘイくんの”みんなじゃなくても、飯とか行こうよ!”というメッセージに、
[もちろんだよ~!瀬川くんも一緒にね]
と少々強気な返信をしてから連絡は来ていない。
もやもやする悩みのタネはひとまず無くなり、このあじさい旅行を存分に楽しめそうだ。
約束の駅に着くと、送迎レーンには既に瀬川くんの車が停まっている。
「ごめんね、待たせちゃった…っ!」
「大丈夫。走らなくてもいいのに(笑)ほら、荷物かして」
後部座席に荷物を載せてくれると、2人で車に乗り込む。
「このへん、初めて来たわ」
「私も、この駅で降りるの初めて!かまぼこ屋さんが沢山あるね」
ナビで言われたとおりに道を進み、ガヤガヤとした街の雰囲気から遠ざかっていく。
「あじさい見に行く寺から、歩いて15分くらいの宿とったから」
「そうなの?ありがとう。それじゃ、歩いて行けるね!」
「ん。まだ早いから…とりあえず、昼メシ食いながらぶらぶらしてみるか」
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私たちは昼食に、地物の魚をつかったひもの定食を食べた。
「ひものって…こんなに美味しいんだぁ~~!!普段食べてるのと全然ちがーう!」
驚くほど美味しいそれに、私は感動していた。
「俺も、こんな美味いの初めてだわ。さすがだな」
お腹も満たされ、お寺に向かった。
梅雨時の週末ともあり、院内には人がごった返している。
瀬川くんは私の手をぎゅっと握り、はぐれないように気を配った。
「すごい人だな」
「ね。今日は雨も降ってないから、よけいに混んでるのかも」
石畳の道を進むと、たくさんのあじさいが咲いているのが見えてきた。
「転ぶなよ」
「うん、気をつけるっ…」
背の高い瀬川くんと手をつないで支えられていると、1人で歩くよりもずっと楽に感じる。
「わぁ…っ!すごぉい!たくさん!」
「うわ、本当だ!すげえな。あっちまでずーっと咲いてる」
数え切れないほどの花弁をまとったアジサイの花が、何メートルにも渡って咲き乱れている。