テキストサイズ

田村さんと私

第1章 訪問

お囃子の音や太鼓の練習の音が公民館から漏れて聞こえる

毎年春になるとこの小さな町では、山車を町中に曳き回す祭りが行われる

稲魂の神様に感謝する祭りである

近年は少子化と共に子どもたちがお囃子と太鼓の練習を嫌がり、年々子どもの数が少なくなった

子どもたちの、晴れ舞台だと言うのに…

と大人たちは残念がり、本来なら子どもたちがやるお囃子と太鼓を大人も一緒にやるようになったのだ

もともと祭りがある環境で育った人たちが、また大人になってからやると練習場が高校の文化祭前のような賑わいを見せるようになった

大人たちが真面目に楽しそうに練習する様子を眺めるのは好きだった

そんなことをぼんやり考えていると、声をかけられた

「ちょっと黒田さん、また今日も田村さんとこの奥さん来てないんだけど?どうなってるの?なにか連絡あった?」

50過ぎの佐々木さんはお節介で世話焼きなのだが、ぎどぎとした目で見てくるのが苦手だった

近くにくると古い化粧品の香りがして、思わずオェッと言ってしまいそうになる

「…いやぁ…特に連絡はないですね…息子の新一は来てるし、田村さん抜きでもいいんじゃないですか?」

「何言ってるのよ!みんなでやるから意味があるんでしょうが!田村さんみたいな華がある人が居るから男衆もやる気になるんだし」

「はぁ…でも来たくないのかもしれないし、無理には…」

そう言うと、佐々木さんが鋭い目で自分を見ながら言った

「…今から田村さんとこ行って、様子見てきなさい、ほらっ」

背中をぐいっと押され、しぶしぶ田村家に向かうことにした

ストーリーメニュー

TOPTOPへ