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インモラル

第1章 雨の日

制服も、下着も

すべて脱いで

壁に向かって、彼に背を向けて

足を肩幅に開いて

立つ

脇の毛はさすがにクラスメイトの目があるから剃るけれど

恥部の毛に手をつけないのは

約束したこと

恥部

陰部

あそこ

プライベートゾーン

呼び名は数あれど

自分以外のヒトの目に

めったにさらさない

それだけは確かな

その部分

ふさふさと生え茂ったそれは

おしりの近くまで続いていく

するり、と他人の皮膚が

私に触れる

うなじから肩甲骨

浮いた脊椎を

まるで筆を這わすように

人差し指の腹で撫でていく

コリコリと爪先で

ブラのフックの後を弄びながら

「呼吸が浅いな」

と要らない感想を述べてくれる

彼はいわゆる優れた芸術家で

私はその芸術を生み出すための素体

私は彼のインスピレーションを生み出す生贄

そこから生み出される

私の肉体を切り売りされた"芸術"は

雑誌で取り上げられ

テレビで祭り上げられ

流星のごとく突然現れた

素性不明の芸術家として紹介される

とん、と仙骨を

指先で小突かれる

「生理はまだかな?」

少し低めの、耳の奥の性感帯をくすぐる声

「昨日が排卵日です」

彼の望むように、口を開いて喉から空気を絞り出す

「生理中の君は美しい」

それは何度も聞いた、琴線に触れない誉め言葉

腰骨に唇がねっとりと触れる

まるで胎内にあるその部分をしゃぶるように

皮膚に吸い付かれる

私は微動だにしない

「もちろん、排卵日の君も、生理が終わった君も、

どこをとっても君は美しいよ」

無意味な美辞麗句が鼓膜を撫でる

ぱしゃり、とシャッターの音

私が切り取られていく

太ももの間から彼の手が伸びて

恥毛(ちもう)を指先で整えて

もう一枚

背中側から腰から太ももにかけて

アップを撮られる

「現世へのラストミニッツ、というところかな」

彼が世に送り出した作品を

私は一度も見たことがない
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