3度目にして最愛
第3章 3度目にして最愛
その後は東条が所持する屋根開放が自由自在の黒色のオープンカーの助手席に水城は乗せられて自宅まで送り届けられた。
下車する際、「また会おうか?」と運転席から悪戯っぽく笑みを浮かべた東条の誘いが、彼女は嬉しくてたまらなかった。
2度目の恋愛と同様に連絡先を交換して、何気ない日常会話のやり取りが多忙な水城の癒しのひと時となるのに然程時間はかからなかった。
お互いの休日が重なれば、恋人のように何処かへ出掛けて娯楽に興じたり、互いの家を行き来して、新調したスペアキーも交換した。
やがて東条の一挙一動が気になって、返信が待ちきれずに何度も端末を確認したり、やたら服装に凝り始め、見栄を張りたくなる、人生で3度目の経験を水城は味わった。
胸の高鳴りと共に女性としての自信や魅力という名前の土俵から落ちた者にしか分からない「いつか捨てられるかもしれない」という背中合わせの恐怖がどういう訳か隣に彼が居る時はなりを潜め、まるで薄らぐような心地になるのが彼女は不思議だった。
自分の手料理を「美味い」と褒めちぎってくれた事、こちらが言うまでもなく旅行先では必ず2つ宿泊部屋を取ってくれた事。「タイプの女の顔は?」と聞いたら、「無い。」とそっけなく返ってきて、それは無いだろうと執拗に問い詰めると、「強いて言えば惚れた女の顔。」と返ってきた歯の浮くような、けれど心なしか嬉しかった東条の台詞。
気が抜けると口調が乱れてしまう自分を「お、隠れヤンキーか?」と揶揄るだけで女だから訂正しろとは決して言わなかった事。
丘に群生するネモフィラの名所にて、乳がんが全身転移して1年前に呆気なく死んだ妻を「散々尻に敷かれたなぁ」とぼやきながら、その両眼には寂しさが溢れていた事。
捨てるのに躊躇していた彼の亡き妻の私物が少しずつ8畳一間の洋室から消えていった事。
水城の過去を詮索するような言葉は1つもなかった事。
走馬灯のように過った彼との思い出の1つ1つに何か共通点があるのではないかと思ったが、彼女にはまだ良く分からなかった。
下車する際、「また会おうか?」と運転席から悪戯っぽく笑みを浮かべた東条の誘いが、彼女は嬉しくてたまらなかった。
2度目の恋愛と同様に連絡先を交換して、何気ない日常会話のやり取りが多忙な水城の癒しのひと時となるのに然程時間はかからなかった。
お互いの休日が重なれば、恋人のように何処かへ出掛けて娯楽に興じたり、互いの家を行き来して、新調したスペアキーも交換した。
やがて東条の一挙一動が気になって、返信が待ちきれずに何度も端末を確認したり、やたら服装に凝り始め、見栄を張りたくなる、人生で3度目の経験を水城は味わった。
胸の高鳴りと共に女性としての自信や魅力という名前の土俵から落ちた者にしか分からない「いつか捨てられるかもしれない」という背中合わせの恐怖がどういう訳か隣に彼が居る時はなりを潜め、まるで薄らぐような心地になるのが彼女は不思議だった。
自分の手料理を「美味い」と褒めちぎってくれた事、こちらが言うまでもなく旅行先では必ず2つ宿泊部屋を取ってくれた事。「タイプの女の顔は?」と聞いたら、「無い。」とそっけなく返ってきて、それは無いだろうと執拗に問い詰めると、「強いて言えば惚れた女の顔。」と返ってきた歯の浮くような、けれど心なしか嬉しかった東条の台詞。
気が抜けると口調が乱れてしまう自分を「お、隠れヤンキーか?」と揶揄るだけで女だから訂正しろとは決して言わなかった事。
丘に群生するネモフィラの名所にて、乳がんが全身転移して1年前に呆気なく死んだ妻を「散々尻に敷かれたなぁ」とぼやきながら、その両眼には寂しさが溢れていた事。
捨てるのに躊躇していた彼の亡き妻の私物が少しずつ8畳一間の洋室から消えていった事。
水城の過去を詮索するような言葉は1つもなかった事。
走馬灯のように過った彼との思い出の1つ1つに何か共通点があるのではないかと思ったが、彼女にはまだ良く分からなかった。