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優しく繋がる赤い糸

第1章 1st side -Natsume-*Act.1

 彼女は俺をからかってる――

 水島萌恵(みずしまもえ)に突然声をかけられ、告白された時、夏目毅弘(なつめたけひろ)は即座に思った。
 萌恵はその頃、まだ十九歳。
 前年に高校を卒業したばかりだった。

 対して夏目は四十路。
 肩書も〈主任〉という、年齢的に考えて出世コースからは完全に外れた存在だった。

 特別美男でもなく、突出した才能もない。
 下手すると親子ほど年の離れた萌恵が自分に好意を寄せている。
 しかも、好意を寄せられたきっかけも全然分からない。
 だから、萌恵の告白に疑念を抱いたとしても無理はなかった。

 だが、さすがに面と向かって「俺を馬鹿にしてるの?」などとは言えなかった。
 それは萌恵の気持ちを配慮して、というよりも、夏目自身が女性に対し、元々気を大きく持てない性格だからだった。

 代わりに、夏目は慎重に萌恵に告げた。
 「君は俺より一回り以上も若いんだ。もっと手近にいい男がいるだろ?」と。

 その夏目に対し、萌恵は真っ直ぐな視線を注ぎながら返してきた。


「私はチャラい同世代の男子より、夏目さんのように真面目な男性がいいんです」


 確かに萌恵の言う通り、夏目は〈真面目〉を絵に描いたような男だ。
 ただ、真面目過ぎるがゆえに要領が悪い。
 出世がなかなか出来ない原因のひとつもそこにあった。

 だが、萌恵は夏目の不器用なところも良いと言ってきた。
 何もかもをひっくるめて好きなのだと。

 夏目は少し考え、まずは当り障りのない関係で付き合うことを決めた。
 からかわれているとは思いつつ、それでも告白されたのは素直に嬉しかった。

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