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ユリの花咲く

第5章 救急搬送

ゴールデンウィークが終わり、瑞祥苑は平穏な状態に戻っていた。

黒木が夜勤を出来るようになって、私と遥で過ごせる時間もいくらかは増えてきた。

夜勤が減った分、幾らかの減収にはなったものの、宮沢施設長がオーナーと交渉してくれたこともあり、数千円程度にとどまった。

私たちが、彼女の奮闘にお礼を言うと、
「オーナーが、吉岡ドクターで助かったわ。
株式会社だったら、こうはいかなかった」
と、宮沢施設長は笑った。

デイサービスの経営にもいろいろな形態がある。

ケアマネージャーなどがヘルパーステーション等と併設して、個人経営しているところもあれば、
社会福祉法人の特別養護老人ホーム等に併されているところもある。
損害保険会社等の全く異なる業種の会社が、介護事業に進出してきている場合も多い。

最近増えているのが、本部から経営ノウハウの提供を受ける代わりに、幾ばくかのロイヤリティを支払うフランチャイズだ。

数百万円の資金があれば、誰でも経営者になれる。
言ってみれば、コンビニのようなシステムだが、簡単に参入出来る分、各施設のレベルには格差が大きい。
もちろん本部において、指導は行われるのだが、
その指導が通りいっぺんでレベルが低かったり、
各施設が本部からみると、ロイヤリティを払ってくれるお客さんのような立場であるため、強く指導が出来なかったりする。
不正や虐待などが頻発して、社会問題化することも少なくない。

瑞祥苑はと言えば、オーナーは『吉岡クリニック』を営むドクターであり、『医療法人・吉祥会』のグループ施設になる。

幸い、吉岡ドクターは医は仁術と言うタイプのドクターで、クリニックの利益を介護福祉で還元しようという考えで、瑞祥苑を始めた。

存続のために、何とか赤字だけは避けたいと言う考えはあるものの、
多大な利益は期待しておらず、そのおかげで瑞祥苑のおおらかな雰囲気が維持されていた。

過大なノルマがないので、宮沢施設長も理想を追及した自由な施設運営が出来ていたし、
その下で働く私たちも、他の施設で聞くような過重労働を強要されることもなかった。

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