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龍と鳳

第10章 讃歌

「あっ!!」

必死に握ってたベルトが、重さに耐えかねて千切れてきた。

「駄目だよっ、切れるなっ!!」

慌てて爪を食い込ませようとするとニノの服に穴が開く。
破れていく生地。
バランスが崩れるっ。

ずっと下にある筈の滝壺から水音がやけに大きく聞こえた。
高度が下がってるのか?
上がらなきゃ。

どうすればっ。

どうすればいいっ!?

「駄目っ、落とさないっ!!」

涙が溢れてくる。
頑張れ!
頑張るんだ、オレ!!

「上がれっ!! 上がれぇ〜〜っ!!!」

叫んだ時、轟音と共にはるか下の方から、よく知る気配が水しぶきを上げて昇って来た。
オレの大好きな、一番好きな魂だ!!

「智っ!!!」

本性を顕わにして巨大な龍の姿をとっている。濡れた全身で日輪からの光を反射して、鱗が虹色に燦めいた。



「翔っ、人の子を放せっ
オイラが捕まえるっ」

「嫌だっ、落とさないっ」

だって今離したら、ニノが死んじゃう!

「バカッ、信じろっ」

「信じてるよっ!」

信じてるけど、怖くて握った指を開けないんだ!

「智っ」

「早くっ! 離せっ!!」

言ってる間にニノのベルトが千切れた。

「ああっ!!」

落とした瞬間に重さが無くなって、オレは翼を広げたまま急に上に引っ張られる。

里の子供が遊んでる三角の凧みたいに体が斜めに揺れて、一瞬、上下の感覚がわからなくなった。智の声が聴こえる。



「翔っ、羽ばたけっ!!
胸で飛ぶんだっ
翼を使えっ!!!」

叫びながら、智がすぐ脇を真上に向かって昇って行った。

その手にニノが握られているのをしっかり見届けてから、俺は胸を大きく開く。

そうだ、腕で飛ぶんじゃない。
胸の筋肉で飛ぶんだ。

風を抱け!!

自分の翼がぐんっと大きくなるのがわかる。
羽根の一枚一枚が風を受けて炎のように震えた。

自分の羽音が。

風の音が聞こえて。

俺は日輪に向かって羽ばたきながら、大きな声で命を讃えた。



『おお~、鳳凰の歌か
良い声だのう~
成鳥の証じゃなぁ』



お山の神様が笑いながら仰るのが聞こえた。



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