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龍と鳳

第15章 邂逅

結論から言ってしまうと、オイラはこの時しょーちゃんの所へ辿り着けなかった。

夜の闇はチビだったオイラにとってあまりにも重くて。
毎日何も考えないで思う通りに泳いできた空が、夜になるとまるで泥のように感じられた。
大気が重くて、厚くて。オイラを拒むんだ。
高度を下げるにしたがって尚更に闇は濃くなり、やがてしょーちゃんが降らしたんだろう雨が、オイラの躰も濡らす。

その雨がオイラ達を繋げたのか、それとも神様のご加護だったのか、不思議なことに里のしょーちゃんが居る景色がお社に居た時と同じように脳裏に流れ込んでくる。

実際にどのぐらいの時間だったのか分からないけど、滝のようだった雨が河原では小雨になっていた。
娘の姿から靄はすっかり消えていて、目を閉じた青白い顔を見れば、もうイノチの光は全く感じられない。
ただ、瘦せこけてはいたけれども、静かに美しい顔で横たわっていた。

そして、しょーちゃんのイノチの珠はさっきよりもぐっと小さくなって、存在が薄く、儚くなっている。

『しょーちゃん、待ってて!!
今オイラがそばに行くからね!!
待っててね!!!』

不安に負けないように強く念じたけれど、しょーちゃんに近づいているのか、そうでないのか。真っ直ぐ泳いでいるつもりなのに躰が斜めになっているような感覚が消えない。

本来の大きさから二回りも小さくなっていた珠が変じて、ゆっくりと人の子の立ち姿が現れる。

『しょーちゃん!!』

しょーちゃんは物凄く顔色が悪くて、顕現と同時にがくりと膝をついた。
何かを吐き出そうとするように苦しそうにオエオエして喘いでいる。

『しょーちゃあん!! うあああ~~!!!』

オイラはもう、すっかり動揺しちゃって。

しょーちゃん、オイラを置いて行ってしまうの?
どこに?
どこに行くの?

オイラ、しょーちゃんがいなくなったら、どうするんだよ。
空を泳ぐことも、食うことも全部、しょーちゃんが教えてくれたんだろ?
しょーちゃんがいなくなったら、オイラ全部忘れちゃうよう。

月も星もない空に垂れ込める雲と、眼下に見える筈の木々が作る影と。どっちが上で下なのか。

オイラもう、わからない……。

朦朧としながら泥の中を泳いでいると、不意に朗々とした力強い声が響いた。地蔵菩薩の真言だ。
バッサ、バッサと翼がはためく音もする。

黒い翼が舞い降りた。
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