メランコリック・ウォール
第51章 傷
マサエさんの手には白い封筒が握られ、赤い文字がちらりと見えた。
「…ん?」
どれどれとお父様が受け取り、皆に見えるようにテーブルに置いた。
赤のボールペンで[森山家の皆様]と書かれている。
「赤いペンで宛名を書くなんて…なんだか気味が悪いわぁ…」
マサエさんが言い、すぐさま「死ね」というメールの文面が頭に浮かんだ。
まさか…、まさかね―――。
お父様は黙って封を開け、中の便せんを取り出した。
「あ…」
とっさに声が出た。
2人は一瞬私を見たが、すぐに封筒に目線を戻す。
裏側からでも、その文章が赤いペンで書かれていることが見て取れる。
文章を読みすすめるうちに、マサエさんは両手を口にやって、おそろしいとでも言うような顔をした。
読み終えたであろう2人の視線は、私に向いた。
「あの…――」
「なんだ、イタズラか。こんなもん、捨てとけ。」
お父様は何事もないように便せんをぐしゃっと丸めてしまった。
「そうですねぇ、まったく…嫌なイタズラだわぁ。んもう…」
受け取ったものを捨てるため立ち上がろうとしたマサエさんを、私は制した。
「ちょ…ちょっと待ってください…!」
2人は無言で私を見ていた。
「もしかしたら…。私のことが書いてありますか?」
それから、これまでの不審な出来事を話した。
「それで今日、あいつが行ってるということか。」
「はい…。本当に申し訳ありません。」
深々と頭を下げると、お父様は”やめろ”というような仕草をした。
「いま大事なのはな、お腹の子だ。」
「はい。…その手紙、私にも見せてもらえますか?」
「…。見んでいい。」
「でも…」
私が食い下がると、マサエさんも口を開いた。
「そうよぉアキちゃん。こんなもの見なくていいわ!とにかくキョウヘイくんの帰りを待ちましょうよ。そうだ、久しぶりに一緒にお夕飯つくろうかぁ♪」
明るく接してくれる彼女にはいつも救われているが、こうなってしまうともうその便せんが気になって仕方なくなる。