メランコリック・ウォール
第53章 Truth
「子は残念だったが…。また出来るやもしれんし、出来んでも2人が仲良けりゃあそれでいい。…そうだろう?」
私は頷き、じわじわとこみ上げる涙を飲んだ。
「アキさん。」
ふたたびお父様が私を見据える。
初めて名前を呼ばれた。
「…はい。」
「正式にうちの嫁っ子にならんか。」
「えっ?…――」
先に声を発したのはキョウちゃんだった。
頬にツーっと涙が伝い、言葉を失う。
「…どうだ?」
「は…はい…それはもう…っ――」
両手で顔を覆い、涙を拭った。
「こいつァな、初めにお前さんをうちに連れてきた時から言ってた。どうしても結婚したい相手がいて、他にゃ考えられんと。俺ァ、親父としてそれを尊重してやりたいと思った。今も思うとる。」
「おいおい、マジ?…親父に先越されるなんてよ。ったく…」
キョウちゃんは呆れながらも笑った。
下駄を履き、カランコロンと私に近づく。
「……アキ。結婚しよう。」
私の涙を拭ってくれるその指はごつごつと男らしく、そして温かかった。
-END-