メランコリック・ウォール
第52章 巡
「アキ。体調大丈夫か?」
「うん。」
「トマトしか食わなくても、子は育つんだな。本当すごい。」
手慣れた様子でモーニングバイキングのトマトを山盛り食べる私に、キョウちゃんは微笑んだ。
「チェックアウトまで、少し眠ろう。」
ほとんど寝ていない私たちは、束の間の朝寝をした。
本当に、束の間の…だった―――。
……夢の中で、オサムとキョウちゃんが殴り合っている。
オサムの持つ大きなガラスはキョウちゃんを切り裂き、顔も…体も、ただの肉の塊のように刻まれていく…―――…
肉片からのぞくキョウちゃんと目が合った…――――
「いやゃあああああっ・・・っ―――」
目が覚めても、息が整わない。
キョウちゃんも飛び起き、過呼吸をおこす私の背中をさすった。
「アキ!…アキ!…大丈夫、ほら…落ち着いて…―――」
やっと息が整ってきた頃、キョウちゃんは冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出しにベッドを降りた。
その時、下腹部に鋭い痛みが走る。
「いっ……―――」
生理の時、どろりと血の塊が排出される感覚。
ぞわっと背筋に寒気が走り、トイレへ駆け込んだ。
外ではキョウちゃんが私の名を呼び、狼狽している。
……――
ホテルを出た事も、飛行機に乗ったことも、なにも覚えていない自分に恐怖が湧き上がる。
気がつくと、病院のベッドにいた。
私の目が覚めたことに気づかない様子で、マサエさんが編み物をしているのが見える。
「マサエ…さん…?」
ハッと私を見たマサエさんは、目に涙を浮かべて立ち上がった。
「アキちゃんっ…!良かった。ああ、良かったぁ…。もう大丈夫よ。今ね、キョウヘイくんちょっと席外してるけどね、すぐ来るから。ね!」
「あの…今、何時ですか」
「えぇっと…―」
マサエさんが、ベッドのわきにある時計を確認した。